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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「便利さ・効率の追求には代償を!」

File.292018年5月31日発行

国会では森友・加計両学園問題、またメディアでは日大アメリカンフットボール事件が大きな騒ぎとなっている。国際情勢に目を転じれば、6月12日に予定されていた米朝首脳会談が突然トランプ米大統領によって中止の表明がなされたり、翌日には開催の可能性を示唆したり、米中首脳のみならず、韓国・中国・ロシアを巻き込んだ駆け引きが活発となっている。

そんな最中ではあるが、ある団体の生産性シンポジウムを傍聴した。近年、日本が超少子高齢・人口減少社会に突入していることから、経済成長の実現のためには、生産性の向上が叫ばれ、政府の打ち出す「働き方改革」をはじめとする各種政策にも必ず生産性の向上が抱き合わせになっている。

産業構造が大きく変化し、日本でも1955年にはGDPに占めるサービス産業の割合は47%であったものが、2014年には74%となっている。ちなみに、他国のサービス産業が占める割合は、米国78%、英国78%、ドイツ69%、世界全体では64%。そして、日本のサービス産業の生産性は、米国の半分、製造業に比べても約7割と格段に低いことが指摘される。しかし、私は本当にそうだろうか・・といつも疑問を感じる。

サービス産業の生産性が低いのは、ひとつの側面から見れば、モノづくりに対する評価はある程度高いが、サービスに対する評価が低いからだとも言える。私たちがサービスを正当に評価し、きちんと対価を払えばかなり改善できるのではないか。私たちは便利さや効率の追求には、代償を支払わなければならないという当たり前のことを怠っていないか。最たるものが地球環境だ。人類が効率と便利さを徹底して追求した結果、地球環境そのものが破壊されてきている。

身近なところにもそんな現象が存在する。例えば、私たち消費者がパソコンのクリック一つで、スマホのタッチだけで、「送料無料」、「即日配達」といった便利さを追求した結果、宅配業者に大量の品物が押し寄せている。しかし、利益はあがらず短納期となる。ヤマト運輸労働組合が、昨年の春季生活闘争で異例の総量規制の要求を掲げたことが、その実態を物語っている。自分たちだけが便利になるために効率性を追求するというのでは、誰かに負担を押しつけることになる。自分たちが便利さや効率を追求したときには、必ず自らがその代償を支払わなければならない。

サービス産業の生産性が低いのは、私たちが代償として支払わなければならないものがまだ多く残っていることも一つの要因ではないかと思う。適正な取引は、企業対企業だけでなく、企業と消費者との間でも当然であることを再認識したい。

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