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誰もひとりでは生きていけない ~映画『はたらく細胞』を観て~

堀江 則子2025年1月22日発行

映画『はたらく細胞』とは

 映画『はたらく細胞』をご存知だろうか。

 細胞の擬人化という斬新かつユニークな設定が話題を呼び、原作である日本の漫画はシリーズ累計1,000万部突破のメガヒットを記録。英語・フランス語を始め各国語にも翻訳され、2017年にはフランスの新聞「ル・モンド」が選ぶ「この夏推薦する図書リスト」に選出されるなど、世界からも注目を集めている。

 本作は、原作漫画「はたらく細胞」とスピンオフ漫画「はたらく細胞 BLACK」をもとに、人間親子の体内ではたらく細胞たちと、親子を取り巻く人間世界を描いている。

 「しっかり者の女子高生、漆崎日胡」(芦田茉奈)の体内の細胞たちは楽しく働いているが、「"酒・たばこ・カップラーメンが大好き"で、不摂生な生活を送る日胡の父親、漆崎茂」(阿部サダヲ)の体内は、細胞たちにとって劣悪な環境(ブラックな職場)と化し、細胞たちは理不尽な労働に疲弊している。

 映画史上最"小"の主人公は、日胡の体内で働く新人赤血球[AE3803](永野芽郁)と白血球[U-1146](佐藤健)。新人赤血球[AE3803]は、立派な赤血球になることを目指し、不器用ながらも懸命に酸素を運び続ける。白血球[U-1146]は、「ぶっ殺す!」が口癖で、病原体退治に執念を燃やす頼もしい存在だ。

 その他、SWAT隊さながらのキラーT細胞(山本耕史他)、司令塔役のヘルパーT細胞(染谷将太)、孤高の戦士NK細胞(仲里依紗)、赤血球の育成係兼高い殺傷能力で異物を殺すマクロファージ(松本若菜)、傷口をふさいで止血する小さくて愛らしい血小板(マイカ・ピュ他)、アルコールの解毒を担う肝細胞(深田恭子)など、多様な細胞たちが協力しながら体内を守っている。

"笑って泣けてタメになる"

(※以下、若干のネタバレを含みます。)

 茂が便意を催し、尻を押さえてトイレに駆け込むシーンや、その体内で繰り広げられる肛門での惨事に、腹を抱えて大笑い。一転、白血病と診断された日胡の体内で、「体内史上最大の戦い」を繰り広げる細胞たちの奮闘に、自然と涙がこぼれ出る。そして何より、体内環境について楽しく学べるのが、この映画の魅力だ。

 「もっと自分の身体を大切にしよう。」茂の体内で苦しむ細胞たちを目の当たりにし、日頃の不摂生を悔い改める。

 実際、映画を観てからは、細胞たちの敵である細菌・ウイルスを寄せ付けないよう、うがい・手洗いを徹底。体内環境を良くするために、食事・睡眠・運動に気を配っている。おかげで最近すこぶる体調が良い。「細胞さんたち、喜んでいるかな。」体内で休みなく働く約37兆個の細胞たちに想いを馳せる。

 週末の映画館は親子連れの姿が目立ち、たくさんの子どもが映画を観ていた。「お父さん、もっと自分の身体のこと考えてよ!」日胡が茂に言うように、家族で健康について考える良い機会になっているのかもしれない。

 "笑って泣けてタメになる"

『はたらく細胞』には、多くの人に健康の大切さを痛感させる力がある。

私たちは共に支え合って生きている

 この映画が気づかせてくれるのは、健康の重要性だけではない。映画史上最小のヒーローが伝えるのは、人々が支え合うことの大切さだ。

 主人公の新人赤血球[AE3803]は、次世代の赤血球たちにメッセージを残す。「私は以前、細菌やウイルスを倒すことのできる白血球さんたちと違い、酸素を運ぶことしか出来ないと悩んでいました。でも今は、この身体を守る大切な一員だと実感しています。誰が偉いとか、誰が強いとかではありません。私たちは誰もひとりでは生きていけない。お互いに支え合って、足りない部分を補い合って、そうやってみんなでこの身体を守っているのです。」

 このメッセージは、多くの観客の胸に深く刻まれたであろう。

 プロデューサーの田口生己は語る。「誰もが日々を生きていく中で、辛いことや大変なこともあるはず。世界を見渡せば、戦争が起きていたり、心が痛むような出来事もあります。そういった時にも解決の糸口になるのは、自分は決して一人ではないんだということ。みんなで協力し合っていくことが、平和への道筋になるはず。」

「人間は地球の細胞である」という視点

 映画『はたらく細胞』では細胞を擬人化しているが、視点を変えて「人間は地球の細胞である」という捉え方をしてみてはどうか。実際、通勤時に人々がオフィス街に向かう様子は、まるで赤血球たちが心臓へ向かって進んでいるかのようだ。

 地球という星にとって、細胞のように小さく儚い存在である私たち。人は一人では生きられない。すべての人間がそのような実感を持つ世界では、多様である人々が互いを尊重し、共に支え合う社会が実現しているに違いない。

【引用・参考文献等】

映画『はたらく細胞』

映画『はたらく細胞』パンフレット、編:山元明子、株式会社東急レクリエーション、2024

映画『はたらく細胞』オフィシャルブック、編:講談社、2024

映画『はたらく細胞』 - ワーナー・ブラザース公式サイト https://wwws.warnerbros.co.jp/saibou-movie/main.html2025120日)

『からだのしくみを学べる!はたらく細胞 人体のふしぎ図鑑』、編:講談社 監:シリウス編集部 監:はたらく細胞製作委員会、講談社、2019

【関連情報】

月刊DIO No.353 「健康格差」を考える https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2020/01/170947.html

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