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長生きの秘訣とは ~目的をもって生きるということ~

堀江 則子2025年11月27日発行

長生きにつながるのは、満足感? それとも目的?

 「人生の満足度」と「人生の目的」、どちらがより長寿につながるのか――。

 フィンランド・アールト大学のフランク・マンテラらが23年間にわたり行った追跡調査によれば、より長寿と強く結びついていたのは「人生の目的」であった。

 人間は元来、自ら考え、選択し、行動する存在である。だからこそ、受け身の感情である満足感よりも、自分の生き方に主体的に向き合う姿勢のほうが、心の健康と深く関係しているのだろう。

日本の長寿の秘訣、「生きがい」

 日本には「生きがい」という言葉がある。「生き」は生きること、「がい(甲斐)」は価値を意味し、「生きる喜び」や「人生の意味」を指す。海外でも"IKIGAI"として注目されており、日本人の長寿の秘訣として語られることも多い。

 興味深いのは、生きがいは必ずしも大きな使命や目標だけを意味しないことだ。飼い犬との散歩、孫を抱く時間、一杯のコーヒーを味わうひととき――そんな日常の些細な営みにも、生きがいは宿る。

 精神科医の神谷美恵子は、生きがいとは目標に向かう道程そのものにあると述べた。仕事で大きな成果を上げることだけが生きがいではない。仕事の段取りを考えること、会議でのひと言、同僚へのちょっとしたサポート――こうした日々の営みそのものが、人生に意味を与えてくれる。

 東北大学の研究者による2008年の4万人を超える調査でも、生きがいを持つ人は持たない人に比べて死亡率が低く、主観的健康感も高いことが明らかになった。生きがいは、心身の健康にも密接に結びついている。

なぜ生きるかを知る者は、どのように生きることにも耐えられる

 「人生の意味」について、極限状態の中で問い続けた人物がいる。オーストリアの精神科医ヴィクトール・フランクルだ。

 フランクルは、第二次世界大戦中、ナチスの強制収容所という極限の環境を生き延びた。財産も地位も健康も奪われた過酷な日々の中で彼が見出したのは、「どのような状況にあっても、自分の態度だけは自分で選ぶことができる」という人間の根源的な自由だった。さらにフランクルは、「人生が私たちに何を与えてくれるかではなく、私たちが人生にどう応えるかが問われている」と述べ、人生の意味についてコペルニクス的転換の必要性を説いた。

 フランクルの言葉は、現代を生きる私たちにも深く響く。現代社会では、「もっと成果を」「もっと認められたい」と、際限なき欲求に駆り立てられやすい。幸せになるためには、成果を出し、認められることが必要だと、多くの人が信じている。しかしフランクルは、幸福とは目標として追い求めるものではなく、意味ある行為を重ねた先に自ずと訪れるものだという。

 大切なのは、自分の置かれた状況にどう向き合うかを選び、その選択に真摯に取り組むこと。そうした道程にこそ、生きる意味は立ち現れる。

自分自身を受け入れ、日々を丁寧に生きる

 正直に言えば、私自身も「際限なき欲求」に揺さぶられることがある。優秀な同僚たちの活躍を目にするたびに、「彼のように鋭い分析ができたら」「彼女のように的確な言葉で伝えられたら」「成果を上げて認められたい」と、他者との比較や承認欲求に心がかき乱され、自分の至らなさばかりが目について息苦しくなる。

 そんな日々を過ごしていたある朝、地平線から太陽が昇り光を放つ瞬間に出会った。辛い日も、楽しい日も、変わらず陽は昇る。しかし、同じ日は二度と訪れない。一瞬一瞬がかけがえのない唯一無二の時間なのだと、その光景が教えてくれた。私たちは皆、唯一無二の存在としてこの世界に生かされている。だからこそ、「このかけがえのない命を、どう使うのか」が問われるのだ。

 他者と比較するのでも承認を求めるのでもなく、ありのままの自分を受け入れ、いまこの瞬間を「生きがい」とともに丁寧に生きる――その積み重ねの先にこそ、長く健やかな人生が開けていくのかもしれない。

【引用・参考文献等】

ヴィクトール・E・フランクル(2002)『夜と霧』みすず書房

神谷美恵子(2004)『生きがいについて』みすず書房

Sone et al (2008)" Sense of life worth living (ikigai) and mortality in Japan: Ohsaki Study."

  Psychosomatic medicine, 70(6), 709-715.

Martela, F., Laitinen, E., & Hakulinen, C. (2024)" Which predicts longevity better: Satisfaction with

  life or purpose in life?",Psychology and Aging,39(6), 589.

茂木 健一郎(2018)IKIGAI: 日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣』新潮社

諸富祥彦(2013)『フランクル「夜と霧」 20133 (100 de 名著)NHK出版

若松英輔(2018)『神谷美恵子「生きがいについて」 20185 (100 de 名著)NHK出版

【関連情報】

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https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2024/12/230900.html

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