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労働組合の未来

海外労組の挑戦

女性トップ初誕生!フランス労働総同盟(CGT)の男女平等の歩み

2023年5月12日

フランス労働総同盟で女性トップ初誕生!CGTの男女平等の歩み

フランスでは労働法の改正により2017年に労働組合の役員に「クオータ制」が導入されました。女性組合員・役員の増加は、組合活動にどのような効果をもたらすのか。フランスのナショナルセンターで最も歴史のある労働総同盟(CGT)の男女平等の取組みについて、2022年12月7日、ソフィー・ビネさんに話を伺いました。ソフィーさんは、2023年3月31日、CGTトップである書記長に女性として初めて選出されました。

「家庭環境による不平等を変えたい」高校時代に労働運動へ

――ソフィーさんの経歴について、簡単に教えて下さい。

高校(リセ)にいた頃から、労働運動への参加を始めました。仕事を始めてすぐに、CGT(Confédération générale du travail:フランス労働総同盟)の組合員になり、一番初めに役員を務めたのはUGICT-CGT(CGTの技術職、管理職、専門職の総連合)です。現在(注:インタビュー当時の2022年12月7日)は、UGICT-CGTの書記長をしており、さらに、CGTの幹部として、男女混合委員会(commission femmes-mixité)のリーダーを務め、男女平等の推進を担当しています。

(注:2023年3月31日、ソフィーさんはCGTのトップである書記長(secrétaire générale)に就任し、現在は初の女性リーダーとしてCGTを率いています)。

――高校生の頃に労働運動を始めたきっかけや経緯について教えて下さい。

高校に通っていた頃、学生が両親の社会的な環境・状況によって、平等な機会が得られない現実を見て、社会的な不平等について問題意識を持ちました。社会的な平等を実現していきたいと考え、労働運動に参加しました。

JOC (Jeunesse Ouvrière Chrétienne:青年キリスト者労働連盟) という団体に参加し、様々な活動をしました。この団体は正式な組合ではありませんが、若い労働者が自分の労働環境や生活を向上させるための活動をしています。私はこの組織において、自分の学校のリーダー、コーディネーターの役割も担っていました。

大学入学後は本格的な組合活動を始め、学生の組合組織であるUNEF(Union nationale des étudiants de France:フランス全国学生連盟)で幹部も務めました。その頃、フランスではCPE(Contrat première embauche:初回雇用契約 )に対する大規模な抗議運動があり、私も参加していました。抗議運動にCGTも参加していたので、そこでCGTの活動を知ったという経緯があります。


CPE(初回雇用契約)とは、従業員数20人以上の企業が、26歳未満の若者を採用した場合に締結でき、無期雇用ではあるが、契約締結から2年間は解雇規制が大幅に緩和される(権利濫用に当たらない限り、解雇自由)とする内容であった。若者の無期雇用を促進するため、2006年3月末、シラク政権下のドピルパン内閣時代に創設されたが、若者を中心とした大規模な抗議運動により、施行前に撤回された。

1999年にCGTは執行委員会・事務局に「パリテ」を導入

――フランスは、ジェンダーギャップ指数ランキングが15位と、116位の日本に比べて、男女共同参画が進んでいる国です。ナショナルセンターであるCGTの男女平等の状況はどうでしょうか。

CGTは、伝統的に、フランス国鉄(SNCF)、自動車、鉄鋼、電力など、男性労働者が多い産業を基盤としています。そのため、長年、男性の組合員が圧倒的に多いという状況が続いていました。近年では、新規の組合加入により、女性の比率も次第に増えてきていますが、現在の比率では、組合員の60%が男性、40%が女性です。

1999年からCGTでは、ナショナルセンターの執行委員会(commission exécutive)と事務局(bureau confédéral)においてパリテ(parité:男女同数)が導入されました。これらの組織では、完全な男女同数とする制度が導入されています。

産別(fédération)および県連合における執行委員会の女性比率は、まだ30%にとどまっており、幹部も全体で22%にとどまっているという状況です。

――1999年のパリテ導入にあたり、CGT内部でどのような取組みがなされたのですか。

パリテの導入に際して、CGTの運営組織が大きく変化しました。特に、執行委員会の人数を計120名から60名にし、人数を減らすと共に、会合の頻度を増やしました。執行委員会が、より実務的な機能を担い、様々な取決めを直接行えるようになったことで、改革がしやすくなりました。

2007年に「男女平等憲章」を制定、2015年以後フォローアップ強化

――CGTは、パリテ以降も男女平等を積極的に推進してきたと聞いています。どのような取り組みを行ってきたのでしょうか。

2007年に、新たにCGT内で男女平等憲章(charte égalité femme/hommes)を制定しました。男女平等憲章では、CGT内部における男女の数の問題だけではなく、どのように女性の参画を促進するかについても定めています。完全に男女同数ということではなく、男女の労働者の総数による比率で役員も決められています。人数だけでなく、例えば、女性の進出や活躍を後押ししたり、性的および性差別的ハラスメントをいかに解消していくかについても規定を置いています。

――15年以上前から取り組んできたのですね。近年は何かしていますか。

2015年からは、この男女平等憲章が適正に実践されているかのフォローアップや評価も、定期的に行うようになっています。

第一に、数について、幹部、代表、組合員数が、当初の目的から減少していないか、適正な数値が維持されているか、評価しています。

第二に、労働組合の教育活動参加の確認もしています。同時に団体交渉などの活動にも女性が十分に参画できているかをフォローアップしています。また、セクハラをテーマとした教育を毎年600名の組合員を対象に行っています。

第三に、男女混合委員会が2015年に設立されました。産別労組と県連合を横断的に統括し、女性参画を促す役目を担っています。

中央委員会が、産業別あるいは地域別で合計70の小委員会をまとめています。20数名の中央委員で、70の委員会の代表と、毎月ビデオ会議をしています。それに加えて、年2回は、実際にCGTで会議をしています。企業内組織(syndicat)にも、委員会が生まれつつありますが、まだ安定的なものとしては機能していないのが現状です。

男女平等憲章は、横断的にあらゆる組合活動に関連する憲章です。「皆でがんばりましょう」と促すだけでは、なかなか現実的に機能しません。専任の委員会の介入により、適切な運用を図るようにしています。

2017年、労働法改正により組合役員に「クオータ制」を導入

――近年、労働法の改正により、労働組合役員のクオータ制が導入されたと伺いました。クオータ制導入の経緯と内容を教えて下さい。

2015年にオランド政権下で労働法が改正されましたが、実際に組合役員にクオータ制が導入されたのは2017年です。

導入された組合役員のクオータ制は、役員選挙において、候補者を男女同数にしなければならないという内容でした。しかし、このクオータ制には、あまりにもルールが厳しすぎて、実践が極めて難しいという大きな問題点があります。

組合役員選挙での候補者の数については、私達CGTは、政府の動きを待たずに、既に改善に向けた活動を行っており、産別等における候補者の数についても、少しずつ不均等が是正されつつあったにもかかわらず、法改正により、あまりにも厳しいクオータが課せられたという状況です。特にCGTの傘下には、労働者の比率が男性ばかりの労働組合や、女性ばかりの労働組合がありますが、そのような組織で組合役員選挙の候補者を男女同数にするというのは、現実には無理です。

現実に沿わないあまりにも厳しいルールが制定された結果、逆に、非組合化に繋がってしまい、組合員数が減少してしまっているという現状があります。もう少し現実に即した形での柔軟なクオータ制の導入をと、政府に打診していますが、現状では改正の動きはありません。

――候補者リストを男女同数にできなかった場合には、どうなるのですか。

候補者を男女同数にできなかった場合、制裁規定があり、候補者リストが無効になってしまいます。候補者を決めることができなくなるため、役員選挙を行えず、執行部が成立しません。女性の方が多くても無効になります。

「クオータ制」の予期せぬ弊害を乗り越えるには?

――クオータ制導入により、組合の女性役員の活用が推進されるものと考えていたので、厳しすぎる制度の導入により、組合員数減少など、目的とは逆の効果が生じているという現状はとても興味深いです。

問題を2つの側面に分けて考える必要があります。

たしかに、現在のクオータ制のルールはとても厳しく、本来の目的である、組合の女性役員の増加に、今のところは積極的に繋がっていません。ただ、その発想自体は間違っておらず、男女平等を徹底的なルールとして適用するという考え方自体は、素晴らしいことだと思います。なので、クオータ制自体が良くないというわけではありません。

一方で、現実に即した柔軟なクオータ制にし、本来の目的を達成していくことが必要です。

――具体的にはどのような提案を政府に対して行っていますか?

私達は主に2つの提案を行い、政府と交渉を行っています。

第一に、比率についてプラスマイナス1名程度の柔軟性を持たせ、多少数字が上下しても、候補者リストが無効とならないような仕組みを提案しています。

第二に、制裁のあり方について、現在は候補者リストが無効になるという厳しいルールですが、そうではなく、代表として従事できる時間数を短縮するような制裁に変えてほしいと交渉しています。例えば、組合の労働者代表として、就業時間内に組合活動に15時間従事できる場合、クオータのルールを満たしていない場合には、5時間しかもらえない等のペナルティです。

政治の世界でも、議員にクオータ制やパリテが導入されていますが、候補者の数がクオータの基準を満たさないと、政府からの助成金が減額されるという制度が多く、候補者リストが無効になるような厳格なものではありません。政治におけるクオータ制と同様、時間数を減らすような制裁にしてほしいというのがもう一つの提案です。

組合員・組合役員に女性が増える利点と残る課題

――ここまで、CGTが女性の参画を推進してきた経緯を伺ってきました。女性参画が増えることは、労働組合にとってどのようなメリットがありますか。

女性の組合員を増やすということは、今まで開拓されていなかった組合員化を促進するので、組合の組織としての力になります。

CGTは伝統的に男性の労働者が多い産業・組織なので、女性を数的にも増やすことにより、組合の活動の幅を広げていくことができます。

また、男女の給与の格差の要因の一つとして、女性が従事している職種が要因になっていることも多いです。例えば、介護や保育、教育など。また、第三セクターの仕事は、同じ学歴や、同じ能力でも、給与が低い傾向があります。そのような職種では、組合がないこと、女性が組合員になっていないことも、給与が低い一つの大きな要因になっています。女性が組合員になることにより、組織自体の力を大きくして、給与格差の是正に繋がっていくという利点があります。

――ここまで、クオータ制も含めて、色々な変遷があった中で、労働組合活動におけるジェンダーの残る課題は、何だと思いますか。

最近、特にCGTとして強化しているのは、セクシュアル・ハラスメントの問題です。

2016年に、CGTでは監視ユニットを設立しました。そこでは、女性の被害者の証言をヒアリングし、状況を確認する作業を行った結果を、適切な産別や県連合、企業内組織に報告をするという活動をしています。ただし、CGTがどういった措置をとるのかを決定するわけではなく、措置については、各組織に委ねるというのが、CGTの基本的な方針です。現在、その強化に向けてプロトコルを作成中です。

CGTは、セクハラや性差別の問題をとても深刻に捉えており、近年積極的に取り組むと共に、ハラスメント予防のための組合員への教育活動を行っています。 この問題は、長期的に考えなければ解決しない問題であり、専任の人をあるいは専任の組織を設けるということがとても重要だと考えて、対策強化を行っています。

組合活動のWLBを高め、若い世代が育つ土壌を

――日本の労働組合に対して、女性参画を進めていく上でのアドバイスやメッセージがあれば、お願いします。

日本の労働組合の現場にいる皆さんが、一番考え、解決方法もご存知だと思います。私から教えられることはないので、外部の人間としてのメッセージに留めたいと思います。

第一に、男女平等を、職場から始めるというのが最初のステップですが、それがゴールではありません。それを、いかに社会的な男女平等にまで広げていくかということを、常に念頭に置く必要があると考えています。男女の平等が、理念的なもの、概念的なものに終始してしまわないようにすることが重要で、組合員としての日々の活動の一部として考えていくことが必要だと思います。例えば、私達は、「国際女性デー」の3月8日には、必ず女性の権利を主張するためのデモを行っています。そうすることによって、男女平等の考え方が、私達組合の中に取り込まれ、日常化していきます。そのようなプロセスが、男女平等を社会的に広げていく上で必要だと考えています。

第二に、男女平等を考える時に、女性の仕事を取ってしまってはいけないということです。「女性の代わりに、何かやってあげよう」という発想ではなく、男性と女性が平等に活躍する機会を提供することが重要であり、モチベーションを与えて、活動する場を女性に提供することが、最も求められていることだと思います。女性参画への活動を男性が主導するのではなく、女性が意志を持ち自ら勝ち取っていくことが重要です。

第三に、男女の平等というのは、決して女性のためだけではないということです。日本において、労働組合への女性の参画がなかなか進まない一つの原因として、組合役員や組合幹部の長時間の活動、男性的な働き方があると伺いました。CGTでも、幹部は長い時間を割いて活動を行っています。そのような中で、男女平等が実現していくと、男性も効率的に、時間を短縮しながら働くことができると思います。今まで女性に任せていた子供の世話や家庭のこと、余暇を楽しむということも含めて、人間らしい生活をするということに繋がっていくと考えます。

そのような変化が、若い世代の組合員を育てることにも繋がります。上の世代が、若い世代に模範例を見せていくことにより、若い組合員の人達が、より合理的・効率的に活動し、健康的な生活を営みながら、組合活動ができる世の中になっていくのではないかと思います。

――ソフィーさんは、1895年のCGT結成以来、初めての女性書記長です。女性初のナショナルセンターのトップとして、男女平等推進の目標があったら教えて下さい。(注:書記長就任後に追加でたずねました)。

労働組合で活動したり、社会問題を解決したいと考えている女性は沢山います。わたしがトップになったからといって、男女平等が実現したわけではありません。より多くの女性がリーダーとして活躍できるように、これからも仲間と一緒に取り組んでいきます。


執筆者:石川茉莉

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