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労働組合の未来

社会課題への挑戦

子どもの笑顔は、教員が働けてこそ
残業123時間の教育改革に取り組む日教組

2022年10月24日

日教組(日本教職員組合) 中央執行委員 総合政策局(労働局長)・女性部長 西嶋保子氏

過労死ラインを大きく上回る長時間勤務、休憩時間は10分足らず...連合総研が実施した「2022年 教職員の働き方と労働時間に関する実態調査」で、教員の過酷な労働実態が明らかになった。日教組総合政策局(労働局長)で、教員の働き方改革に取り組む西嶋氏に、労働時間の削減がなかなか進まない背景と日教組の取り組みについて聞いた。

残業は月123時間。「心身がもたない」教員から悲鳴

――「教職員の働き方と労働時間に関する実態調査」の結果をどのように評価しますか。

西嶋

実態調査によると、教員の1カ月平均の時間外労働時間は、持ち帰り業務も含めると約123時間に上りました。2015年調査の129時間超に比べればやや短くなったものの、依然として過労死ラインとされる月80時間を大きく上回ります。1日の平均休憩時間はわずか9.7分で、回答者の半数以上は「休憩がない(0分)」と回答しました。

私たちは長い間、教員の労働環境の是正を訴えてきましたし、過労死訴訟の報道などを通じて社会的な認識も強まっています。9月7日に連合総研が調査結果を発表した際も、多数の新聞やテレビが取り上げ、SNSでも話題になりました。それでも、人間らしい働き方には程遠いのが現状です。

――政府の対応はどうなっているのでしょうか。

西嶋

文部科学省は教員の働き方改革として、長時間労働の改善を打ち出しています。しかし具体的な業務削減策の提示がないまま、現場の管理職は超過勤務の縮減だけを求められています。この結果、実態調査でも、回答者の12.6%が管理職に残業や休日出勤を過少申告するよう指示されたと答えています。

文科省は教員の負担軽減のため、放課後の繁華街の見回りや部活動指導などを地域へ移行する方針を示しています。しかし学校や教育委員会には、住民と役割分担を話し合う時間的な余裕がありません。地域の側も高齢化や連帯意識の希薄化が進み、学校側の求める役割の担い手が減っています。

部活動についても2018年、平日・休日の活動時間などに関するガイドラインが出されましたが、大会前などは必ずしも守られてはいません。大会等に単独で引率ができる部活動指導員制度が導入されましたが、なり手がいないなどの課題があります。顧問の教員は週末も大会に帯同し、事故のリスクを負いながら、会場まで生徒を自家用車で送迎することすらあります。

――先生たちからは、どのような声が上がっていますか。

西嶋

「子どもを教えたい」という熱意をもってこの仕事に就いたはずの教員たちから「やめようかと考えている」「心も体も限界」といった悲鳴が上がり続けています。うつなど精神疾患による休職者も、過去10年ほど5000人前後で高止まりしています。

教育実習に来た学生も、想像と現実の違いを目の当たりにして教職を諦め、民間企業に就職する人が増えています。また定年以外の退職理由で最も多いのが転職で、多くの教員がメンタルヘルスや体調を損ねるなどして、民間の学習産業などに流出しています。若い人が集まらないだけでなく、現場からも教員が逃げているのです。

メッセージ 西嶋氏①

採点も部活動指導も「自主活動」残業代は支払われず

――過労死まで起きているのに、なぜ過重労働が改善されないのでしょうか。

西嶋

最も大きな原因は、公立学校教員の給与について定めた特別措置法、いわゆる「給特法」にあります。1971年に制定された同法によって、管理職が時間外勤務を命じられるのは、学校行事と実習、職員会議、災害時などの緊急対応の4項目に限定されました。

しかしその後、テストの採点や打ち合わせ、部活動など4項目以外の業務が増加し、長時間労働が深刻化しました。にもかかわらず上記4項目以外の「管理職に命じられない仕事は自主的・自発的行為である」と都合よく解釈され、給特法により勤務時間管理もルーズなまま、残業代も支払われず、過労死であるにもかかわらず公務災害として認定されてこなかったのです。

――労働環境を抜本的に改善するには、どうすればいいでしょうか。

西嶋

現状では、教員1人が勤務時間中にできる仕事の1.7倍の業務をこなしている計算で、是正するには教職員を増やす「定数改善」が不可欠です。文科省は2022年度から、小学校高学年に教科担任制を本格導入するとして、4年間で教員8000人以上を増員するよう財務省に要望しました。しかし十分な予算を得られず、現場で他に配置するはずだった教員を教科担任に回して純増数を抑えています。スタッフ職の拡充もされていますが十分ではありません。

また文科省の調査によると、2021年には新年度の段階で、全国の教員ポストに2800もの欠員が生じており、増やすどころか必要数を満たしてすらいません。

――増員が難しいなら業務を減らすことはできますか。

西嶋

現場でできる業務削減には限界があり、学習指導要領から変える必要があります。文科省の「令和の日本型教育」でも、増やす案ばかりが出されました。あれもこれもと中身が増えるばかりで、教員だけでなく子どもへの負荷が重くなる一方です。

要領に定められた標準授業時数は増加傾向なので、ひとつ項目を追加するなら、既存の項目をひとつ減らす「スクラップ&ビルドの原則」を徹底するよう申し入れています。

実態を明らかにし、世論に訴え、法改正を実現

――給特法を見直す動きはあるのでしょうか。

西嶋

給特法が時代に合わないことは明らかで、日教組は給特法の廃止もしくは抜本的な見直しを求め続けてきました。2016年に連合総研に調査研究を委託し、教員の過酷な労働環境を明らかにしました。改善に向け他の産別や地方連合会とともに「教職員の働き方改革プロジェクト」の署名に取り組み、新聞への一面広告掲載など、マスメディアを通じて改善を訴えました。

こうした結果、2019年の法改正でようやく、時間外労働の上限規制が定められました。ただ罰則規定は盛り込まれず、違反してもペナルティを課されないという課題が残っています。

――今後の取り組みを教えてください。

西嶋

大胆な業務削減と定数改善、給特法の廃止・抜本的見直しを、引き続き三本柱として訴えていきます。給特法は廃止する、もしくは抜本的に見直して教員を労働基準法の枠内に戻し、残業も36協定の範囲内に収めて対価を支払うべきです。

政府は給特法見直しについて、2022年の文科省調査の結果を踏まえて検討を始めるとしています。しかし私たちは「今苦しんでいる教員のため、結果が出るのを待たず早急に対策を講じるべきだ」と要望しています。定時出勤・退勤が当たり前の働き方に変われば、育児・介護に携わる教員や、健康不安を抱える人のさらなる活躍も期待できます。

率直に言えば、政府からは早急に根本的な解決策を講じなければ、という危機感が感じられません。日教組も働き掛けを強めてはいるのですが、先生方の「どうせこの働き方は変わらない」というあきらめの声を聞くと、心苦しい思いです。

子どもの「声なきSOS」くみ取れる現場に

――教員の側には、変革への抵抗感はあるのでしょうか。

西嶋

遅くまで残っている教員を高く人事評価する校長や、「早く帰って」と言うだけで業務削減に取り組まず、持ち帰り業務を増やしているだけの校長もまだいます。また部活動の地域移行ひとつとっても「これまでのわれわれの努力を否定するのか」「子どもの精神を鍛える有意義な教育活動であり、教員が取り組むべきだ」といった、教員自身からの反発があります。

ひとりひとりは一生懸命なのですが、休憩がないのも部活動があるのも当たり前、という職場で育ち、本来の仕事以外へのこだわりが強まってしまったように思います。教員の思いをくみ取りながらも、少しずつ意識を変えていく取り組みも重要だと考えています。

――教員が人間らしい働き方を取り戻すことは、子どもたちにどのような影響をもたらすでしょう。

西嶋

教員が生活を大事にして、終業後も残業ではなく、本当に研究したい内容に取り組めるようなったり、自分の生活時間がゆたかなったりすると、心にゆとりが生まれます。教員に余裕があれば、時間を取って子どもの話に耳を傾け、子どもたちの「声にならないSOS」をくみ取ることもできるようになります。いじめや不登校の兆しを察知したり、子どもの個性に合った対応もできるでしょうし、保護者とのコミュニケーションを密に取れるようになれば、モンスターペアレント化するのもある程度防げると思います。

子どもへの教育は、次世代の社会基盤を作るため、絶対に必要な投資です。そして教員の働き方の健全化は、子どもたちに必ず良い効果をもたらします。私たちは活動を通じて、子どもたちがさまざまな発見や失敗を経験しながら、笑ってすごせる教育現場を実現したい。それが将来、より良い社会を創ることにつながると信じています。

――労働組合である日教組だからできたことはありますか。

西嶋

文科省に対して政策と現実の乖離を指摘できるのは、全国の学校現場からの声、実態を聞き取れるからこそです。また組織内議員を通じて、法改正を働きかけることもできます。連合総研の協力で今回の実態調査が実現したように、他の組織・団体との連携がしやすいのも、組合ならではだと考えています。

さらに、各都道府県にある日教組の単組・支部は、保護者や地域住民との対話の場を設けています。こうした場を通じて、教員の長時間労働が子どもたちの教育にどのような弊害を及ぼすか、といったことをともに考え、広く社会へと伝えていこうとしています。

メッセージ 西嶋氏②

聞き手 中村天江
執 筆 有馬知子
撮 影 刑部友康

社会課題への挑戦

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