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労働組合の未来

社会課題への挑戦

法律、SNS、メディアすべてを駆使して
外国人労働者を守る産別労組JAM

2022年10月11日

ものづくり産業労働組合 JAM 本部組織・政策部門 組織グループ組織化推進局
(右)ミンスイ氏(在日ビルマ市民労働組合会長)(左)藤岡小百合氏

ものづくり産業労働組合JAMは、外国人労働者の支援と組織化に取り組んでいる。なぜ日本の労働組合が外国人を支援するのかと、素朴な疑問を抱く人もいるだろう。外国人労働者の支援を続けてきたミンスイ氏と藤岡小百合氏に、産別労組が外国人労働者を支援する意義をたずねた。

解雇、賃金未払い...外国人の苦境を労働法で解決

――外国人労働者に対する違法な労務管理や差別が社会問題となっています。この問題は、これまでどのような変遷をたどっているのでしょう。

ミンスイ

私は「在日ビルマ市民労働組合(以下FWUBC)」で20年以上、外国人労働者の支援に関わってきました。2000年代は不法滞在のミャンマー人からの未払い賃金・解雇に関する相談が多く、2013年ごろからは、技能実習生からの相談が急増しました。

最近は、定められた労働時間の上限を超えて働いてしまう「オーバーワーク」の外国人留学生から、未払い賃金に関する相談が増えています。留学生ビザの場合、労働時間の上限は原則、週28時間と決まっています。それでは生活できないので40~60時間働いてしまう。すると上限を超えた分の賃金や残業代が支払われないことがあるのです。

――最近多いという留学生への支援は、具体的にはどのような内容でしょうか。

藤岡

留学生の多くは、本当に生活に困って労働時間を超過してしまうのですが、賃金の未払いがあってもオーバーワークの発覚を恐れて声を上げられません。雇い主はそこに付け込むのです。3カ月の就労期間が終わると同時に雇い主が消えてしまい、1円ももらえなかったという事例もあります。

ミンスイ

日本人、外国人に関係なく、労働問題が起きていたら労働法に基づいて解決するのがわれわれ労働組合の役割です。ビザの種類や相談者の立場に関係なく、そしてたとえオーバーワークであっても人権が優先されるべきですし、未払い賃金があれば使用者は支払わなければいけません。

メッセージ ミンスイ氏①

――産別労組であるJAMが、外国人労働者を支援するようになったのは、どんな経緯からですか。

藤岡

ミンスイさんらミャンマー難民の人々が2002年、FWUBCを結成した時に、JAMが活動を支援したのが始まりです。JAMはミャンマーに講師を派遣するなどして、現地での組合結成も支援しました。その後外国人からの相談が増えたことなどから、2020年にFWUBCが正式にJAMへ加盟しました。

前年の2019年3月には非正規や外国人労働者等雇用の多様化に対応した未組織労働者の「受け皿」としてJAMゼネラルユニオンが結成されました。私とミンスイさんはこのJAMゼネラルユニオンの担当をしています。

2021年2月のミャンマーでのクーデター後、JAMゼネラルユニオンには毎月50件以上、外国人からの相談が寄せられています。文書の送付や団体交渉の申し入れなど、雇い主にアプローチしたケースは2022年1~8月末で100件ほどです。このほか、JAMゼネラルユニオンが2022年2月から始めたLINE相談にも、月に50件ほど相談が来ています。

組合と弁護士、メディアが連携し技能実習生を保護

――技能実習生の問題には、どのように関わってきましたか。

ミンスイ

2013年ごろから、1日12時間働かされて月6、7万円しかもらえない、といった技能実習生の相談が頻繁に入るようになりました。しかし私がそれを日本人の労働組合関係者に訴えても、「日本企業は、そこまでひどいことはしないよ」と、最初は取り合ってもらえませんでした。ただ次第に事態の深刻さが認識されるようになり、JAMとFWUBC、労働弁護団などが共同で、問題解決に取り組むようになりました。

2018年には岐阜県の企業が、技能実習生のミャンマー人女性に対して、最低賃金未満の給料で、過労死ラインを超える長時間労働をさせていることが発覚しました。われわれは実習生が携帯から送ってくれたコンビニレシートの写真を元に会社を見つけ出し、メディアを連れて乗り込んで、彼女らを保護しました。保護した時実習生のひとりは「日本はもう嫌だ、ミャンマーに戻る」と涙ながらに話していました。

藤岡

その後、技能実習法の改正などもあって極端な人権侵害は減り、現在は有給休暇やセクハラ・パワハラに関する内容が多いですね。相談者には有給休暇の存在を知らない人、給与明細を読めない人も少なくありません。だから相談内容と直接関係がなくても、休みを取れているかどうか必ず確認し、給与明細の画像もなるべく送ってもらうようにして、本人が気づいていない問題を把握するようにしています。

未払い賃金などがあれば会社に通知書を送り、支払わない場合は労働基準監督署に申告します。ハラスメントの場合は組合に加入してもらい、団体交渉を申し入れることが多いです。岐阜のケースのように、あまりにも悪質な場合はメディアの協力を仰ぐこともありますが、基本的には話し合いを通じて良好な関係を築き、実習生がより良い環境で働き続けられることを目指します。

ミンスイ

内容によっては、相談者本人に動いてもらうこともあります。例えば辞めさせてもらえない、有給休暇をもらえないといった場合、本人の要望を日本語の文章にしてメッセンジャーで送り、印刷して雇い主に提出するよう伝えます。雇い主も、書面を通じて正当な手続きを踏んだ要求を拒むことはなかなかできません。相談件数にはカウントされていませんが、こうしたメッセンジャーのアドバイスだけで解決している相談もかなりあります。

メッセージ 藤岡氏②

ブータン人留学生の組合結成を支援

――ミャンマー以外の外国人にも、支援は広がっているのでしょうか。

藤岡

中国やロシア、フィリピン、ウクライナなどの人からも相談が寄せられています。問題が解決すると、同国人コミュニティー内に口コミで情報が広がり、芋づる式に相談が増えるようです。

2019年、在日ブータン人による「国際ブータン労働組合(ILUB)」の結成をJAMが支援しました。留学生として来日したブータンの人々が留学生時代の過酷な体験から、同胞を救うために就職後に組合結成にいたったのです。

ブータンでは2017年以降「働きながら学校を卒業すれば、いい仕事に就ける」などとブローカーに勧誘され、120~130万円もの借金を背負って来日する若者が急増しました。しかし彼ら彼女らの多くは、週28時間のアルバイト暮らしで借金を返済できず、就職や進学のサポートも得られないまま、帰国せざるを得ません。

JAMはILUB組合員を通じて、ブータン国内で悪質なブローカーに対する注意喚起に取り組むほか、日本でも留学生に質の高い仕事を提供する仕組みづくりを模索しています。

――JAMで外国人労働者を支援するに当たっての、展望と課題を教えてください。

藤岡

LINE相談を始めると、電話相談ではアクセスしてこなかった20~30代の相談が増えたり、公式アカウントがバズって拡散したりと大きな効果があったので、SNSの活用は進めたいと考えています。

またビザの問題や予期せぬ妊娠など、労働以外の相談も「分からない」で終わらせず、他の団体と連携するなどして、できる限りサポートしていくつもりです。

課題は外国人労働者の組織化です。組織化推進局は日本人、外国人に関わらず労働相談を受け、それを入り口に組合結成を支援する部署です。しかし外国人の多くは社員寮に住み、離職のたびに転居するのでつながりも途絶えてしまいがちで、組合組織の核となるリーダーを見つけにくいのです。

そこでILUBのように、出身国別に組合を作れないかと考えています。在日外国人は、同じ国の出身者が集まってコミュニティーを作ることが多いし、SNSでもつながっています。こうした途切れないつながりを、組織化に生かせればと思います。

――お二人にとって労働運動のやりがい、醍醐味は何でしょうか。

ミンスイ

私にとっては、在日外国人の困りごとを解決するという個人としての目的が先にあり、そのための取り組みの一つとしてJAMの活動があります。ミャンマーのクーデターの際も、政治的な部分はFWUBC会長として私が中心となって動き、JAMは声明を出したり横断幕を作ったりと、役割分担しながらそれぞれ、できることをやってきました。

困っている人を助けるのは、とても人間的な行動だと思います。JAMとつながったことで、ミャンマー人だけでなくさまざまな国や立場の人と関われるようになり、今日までやってくることができました。

メッセージ ミンスイ氏②
藤岡

すごく大きな志があるわけではないのですが、仕事を通じていろんな国籍や職種、人生のバックグラウンドを持つ人たちと一緒に活動できることが、単純に楽しいです。

私自身、かつて青年海外協力隊で海外に派遣された経験があるので、言葉が分からず有給休暇ひとつ取れない実習生のもどかしさはよく理解できます。時にはしんどい相談もありますが、外国人の困りごとの解決に当たれることをとてもうれしく思いますし、これほど多様な人たちと関われるのは、間口の広い産別労組ならではだと思っています。

メッセージ 藤岡氏②

聞き手 中村天江
執 筆 有馬知子
撮 影 刑部友康

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