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労働組合の未来社会課題への挑戦

社会貢献活動の「基本方針」をグループでつくり、高島屋労組の12支局で展開

2025年11月21日

全髙連旗

全髙島屋労働組合連合会(以下、全髙連)では社会貢献活動基本方針(以下、基本方針)を策定し、全組織をあげた活動に取り組んでいる。その中核である髙島屋労働組合の社会貢献活動は中央・全12支局・個人で多角的かつ独自の活動を展開している。また、その特徴として、一定の緊張感を持ちつつも労使が協調して取り組んでいることが挙げられる。なぜそうした活動が長年にわたって継続でき、組合員に根付いてきているか、全髙島屋労働組合連合会の今井慎哉会長と髙島屋労働組合の奥野智博中央執行委員長から話を聞いた。

労働組合の社会的責任から基本方針、そして様々な活動へ

――全髙島屋労働組合連合会の組織概要についてお聞かせください。

今井

現在の全髙連は1998年に髙島屋グループ労働組合連合会と全髙島屋労働組合連合会を統合し、新生・全髙連としてスタートしています。髙島屋労働組合を中心に、飲食系労組、酒類卸系労組、建装系労組、金融サービス系労組、ファシリティ系労組の6つの単位組合から構成されています。なお、当社は事業持株会社で、組合員もそれに対応して組織化されています。遡ると、百貨店の労働組合があり、その後、各グループ会社の労働組合が設立され、ともに取り組んできた経緯があります。

現在、組合員はグループ全体で約7,000人、そのうち約6,000人が髙島屋労働組合に所属しています(2025年4月時点)。全髙連は、各単組の自治自決を尊重する中でも、単組事情や活動特性に鑑み、単組-労連間や単組間という組織の垣根を超えた連携・支援を実現し、労働組合の立場から「グループ総合力」を発揮する組織運営・活動を実践していくといった役割を持っています。

――全髙連の社会貢献活動に対する考え方についてお聞かせください。

今井

企業に社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)が求められている中で、労働組合も社会的責任(USR:Union Social Responsibility)を負うべきだと考え方が基本にあります。以前より全髙連では、産業・経済活動の中で実際に起こっている環境破壊や児童労働、貧富の格差拡大等の国際社会の潮流を踏まえた問題について、人間性追求の観点から主体的に関与していくことをUSRの取り組み指針としてまとめ、全髙連及び各単組における活動のベースとしてきました。

その後、2010年に全髙連は、社会の一員になるとの考えのもと、次のような基本方針を策定し、毎年の活動を行っています。

――全髙連の具体的な社会貢献活動について教えてください。

今井

旧JSD(日本サービス流通連合会、2012年にUAゼンセンに統合)時代から通算で約20年に亘って取り組んでいる「愛の募金」が代表的です。毎年11月から12月に実施し、例年、年間80~100万円ほどが集まります。募金額の8割を全髙連グリーン基金として関係団体に寄贈、1割をきょうされん自然災害基金への寄付、残りの1割を上部団体であるUAゼンセンボランタス基金に拠出しています。

また、困っている方に対して人的支援をする活動として「自主プログラム」があります。特に、障害者を支援する「きょうされん」(旧称、共同作業所全国連絡会)の全国大会に、2009年頃から組合員を運営スタッフ等としてボランティア派遣しています。2025年の奈良大会には約20名が参加予定です。

今井

2011年からは、組合員のボランティア活動を顕彰する全髙連社会貢献活動表彰制度を設けました。より多くの組合員が表彰されるような基準を作成し、毎年3~5人程度が表彰しています。

例年12月に開催する「社会貢献セミナー」では社会的関心の高いテーマを扱い、学びの機会を提供するとともに、組合員の社会参加を支援しています。昨年は南海トラフ・首都直下型地震に備えるセミナーについて、メディアにも多数出演する災害リスクアドバイザーの方から講演をいただきました。

さらに、社会貢献活動に対して意欲ある組合員への資金援助として、ボランティア活動に参加する際に自宅から現地までの交通費を支援したりしています。「アルミ缶&プルトップ回収活動」にも取り組んでいます。これは集めたアルミ缶やプルトップが車いすになり、必要とする事業所へ寄付しています。

――全髙連の社会貢献活動をさらに充実させるために心掛けていることや、心掛けていきたいことがあれば、教えてください。

奥野

過去からの百貨店主導で社会貢献活動に取り組んできた経緯を一度リセットし、グループ全体の中で力を高めていきたいと考えています。そうした中、髙島屋労働組合だけの活動になっていないかということを常に意識しています。そもそも百貨店志向になっていること自体が、グループ企業全体のリスクであると捉えているため、可能な限りグループの取り組みに発展・拡張させていきたいと考えています。

そして、現在、全髙連の企画・運営の主体は髙島屋労働組合の専従者ですが、今後の参画者・運営者はグループ労組のメンバーにも裾野を広げていきたいと考えています。

労使共同で運営する「一粒のぶどう基金」

――次に髙島屋労働組合の社会貢献活動である「一粒のぶどう基金」について教えてください。

奥野

2005年に設立された「一粒のぶどう基金(理事長:奥野)」は社会貢献活動の基金を労使共同で運営しています。髙島屋の経営理念である「いつも、人から。」にも深く関わっています。「一粒のぶどう基金」の名前は、「ご病気のご子息からお客様がおいしいぶどうが食べたいと言われたが、桐箱に入っているようなぶどうばかりで高くて買うことができなかったため、一粒(本当は一房らしいです)だけ切り分けてお売りした。本当はいけないんですけど」というエピソードに由来しています。相互扶助や滅私の精神を体現しようということで、「一粒のぶどう基金」とされました。

「一粒のぶどう基金」の事業は大きく3つあります。1つ目は中央事務局が企画・運営する中央事業、2つ目は各支局単位で地域との関係の中で運営する支局事業、3つ目は会員が独自で社会貢献活動をする時に申請に基づき拠出する会員提案事業です。

中央事業では、この10年間は「世界の子どもを児童労働から守るNGO」のACEと連携し、児童労働撲滅に向けた啓発活動を行っています。また、環境保全の観点から、従業員からのデニムやカシミヤの衣料品の回収キャンペーンにも力をいれています。子ども食堂やフードバンクへの支援も行っています。さらに今後、より注力したい活動としてLGBTQの方の理解・支援者を拡大するAlly啓発活動があります。

決して費用がかかるばかりの活動ではありません。むしろ、基金の主旨は、会員が社会貢献活動への支援を通じて、社会の一員であるという自覚や社会人としての素養を身につけるとともに、自己実現や生きがいの形成につなげることを目的としていますので、労務提供を伴う活動であることを基本にしています。

例えば、基金を立ち上げた当初は長野県にあった当社保養所の近隣エリアにおいて桜の植樹活動を行っていたのですが、社会貢献意欲を醸成する黎明期であったことからも、桜の苗木代やレクリエーション的要素を盛り込んだ旅行費等が掛かっていました。それを否定するものではありませんが、会員の社会貢献意欲の成熟化とともに、そうした企画は発展的解消をし、先ほど申し上げた児童労働撲滅など、より幅広い社会課題に向き合う取り組みに移行してきています。結果としてローコストになっており、むしろ、あるべき姿に近づいたと思います。

支局事業については2005年に事業領域を定め、環境保全や地域貢献、福祉介護、大規模な自然災害が発生した時などの原資拠出の中から、地域の団体等と連携しながら全12支局で取り組んでいます。一方で、取り組まないと、「何で?」という雰囲気になります。地域社会に属するものとして取り組んでいることが自然であり、当然という考えです。

会員提案事業は金額ベースで年間数十万円となります。個人的にはもっと金額が増えてほしいと思っています。

「一粒のぶどう基金」は1つの福祉団体として運営されており、様々な企画や予算は労使双方のメンバーで構成される代議委員会で議決されます。年度の企画・予算は5月を目途に審議されますので、中央事務局・支局ともにそのタイミングに合わせて、新規企画を含めて考案する運営が定着しています。もちろん期中であっても、魅力的な企画は速やかに実行できるよう、労使で議論・検討していきます。

【PDF】髙島屋労働組合の12支局が取り組んでいる活動

大阪支局 大宮支局 岡山支局
柏支局 京都支局 EC・クロスメディア支局
新宿支局 高崎支局 玉川支局
東京支局 法人支局 横浜支局

財源は福利厚生団体から譲渡を受けた自社株式の配当金です。それを企業としてどう活用するかとなった時に、当時気運が高まりつつあった社会貢献のために使おうということとなりました。配当金収入は、昨今の増配もあり増加傾向で、事業費や運営費を差し引いても繰り越しが発生しており、更なる有効活用策を検討しています。

――「一粒のぶどう基金」の領域や参加者をさらに拡大するために何か取り組んでいますか。

奥野

当初は、先ほど述べた通り桜の植樹をしたりしていましたが、会員にもう少し取り組みに対する興味を持ってもらえるよう、児童労働撲滅や、参加者の裾野が広がる回収活動に変更するなどの工夫をしてきました。原資の拠出拡大にはつながりませんでしたが、参加者の裾野は広がったと考えています。

今後は、労使で更なる活動領域の拡大を検討することとしています。財源の有効活用という視点もありますが、2005年にスタートして以降、規約内容を見直しておりませんので、活動内容が環境保全や地域貢献などCSRの範囲に留まっている傾向を課題視しています。そもそも社会貢献という言葉自体が古典的でもあります。今日的には、社会貢献を目的としてもって活動するのではなく、少し大げさに言うと、組織と個人に「地球市民」としての精神が先にあって、それに基づく行動・活動をすることが、結果として社会に貢献していることが正道であり自然です。先ほど申し上げた参加人数や予算執行にこだわらない理由もそうした想いに起因しています。

話を戻すと、そうした考え方をもつ中で、理事長としての私見ですが、例えば、社会課題への対応全般を活動領域とし、潜在労働力の活用促進、人材育成やキャリア形成の機会的・経済的支援、会員自身や会員が所属する団体の活動深化に向けた人的・経済的支援など、社内外とソーシャル・オープンイノベーションの要素も持ちながら検討を進めたい。

今井

中央事務局では各支局の取り組みへの参加者人数は把握していません。また、以前は報告書を作成していましたが、現在は業務を効率化するため作成していません。前向きな人が1人でも2人でも増えれば良いと思っていますので、参加者を集めようといった指示も一切していません。現状では、毎回定員くらいの参加者がいますので、今はこの温度感で良いという認識です。

奥野

企画評価みたいな視点はあんまり持っていません。最終目標として、人数を集めることより、生活人や企業人として、一人ひとりの行動の中に、「一粒のぶどう基金」の精神がどれだけ日常的に反映されているかが最も大切だと思っています。

日本で初めて労使でグローバル枠組み協定を締結

――グローバル枠組み協定について教えてください。

奥野

2008年に髙島屋労使、旧JSD、UNIの4者で日本企業の労使として初めてグローバル枠組み協定を締結しました。USR政策の一環として位置づけられ、現在も継承されています。

今井

「地球環境に対する影響」「職場における人の尊厳・基本的人権」「地域社会における人の尊厳・基本的人権」など、普遍的に認められる原則に基づき行動することに合意しています。この協定が目指すところは、社会的パートナーとして労使が共に強い企業づくりに向けて、それぞれの役割と責任のもとで協調しながら、企業全体の姿勢を社会に示すことです。こうした協定は、労働組合としての社会的責任を果たす活動に、積極的に取り組む意義につながっています。

奥野

CSRとUSRを融合させた労使の枠組みを持つことは、当時として新しい視点だったと思います。双方のモニタリング機能がより効いた中で、労使が企業価値を上げ、社会に貢献し、社会に対して適正な姿勢で経営を行い、企業活動をする、組合活動をするという新たな道として、社内外に示唆を与えたと捉えています。

ただ、そうした枠組みを持っているものの、当社の事業の多くが国内のため、海外の労働問題にしっかりと関与できているかという問題はあります。現在は、現地法人では解決できない海外事業所内の労働問題にどう関与し、どう取り組んで解決していくかという段階です。

今井

締結当時は、現在と比べて海外事業も限られていたため、国内の企業活動の中で、労使としてグローバル・コンパクト10原則やILOの中核労働基準をしっかり遵守することにベースを置いていました。その当時には、今後グローバル化がさらに進んでいく中で、将来の当社の海外事業の拡大を見据えた部分もあったわけですが、アジア地域を中心に海外事業が加速する今、これからグローバル枠組み協定の真価が問われると考えます。

課題を克服し、先を見据えたUSRへ

――ありがとうございます。続いて全髙連・髙島屋労働組合全体のことをお聞かせください。なぜ、2009年頃から象徴的なプログラムを作ろうと思われたのか教えてください。

奥野

2001年頃から髙島屋では経営改革に取り組んでいました。その後、経営基盤が整備され、2005年以降から社会貢献に気持ちが向き始めました。ちょうどこの時期はCSRに注目が集まっていた時期にもなります。

企業風土や経営理念に「いつも、人から。」があり、また、社会的価値の創造で企業価値を上げていこうというポリシーはもともと高いと言えます。そうした中、繰り返しになりますが、2007年に髙島屋労働組合がUSR政策を作り、それに準じる形でその後、全髙連では社会貢献活動基本方針を政策化しました。

ただ、当時、CSRの考え方は従業員にまだ浸透していませんでした。社会性が高い政策を策定していましたが、実際の運用としては、レクリエーション的要素を混ぜながら、組合員の集う場の1つとして機能させたりしていました。このころはUSRを推進するためにUSR活動をしていた感じです。レクリエーション的要素があるから、社会貢献活動になんで組合費を使うのだという疑問が組合員に湧きにくかったと思います。それから先述の通り段階的に発展させています。ただ、組合と組合員一人ひとりの距離の中で、どれだけ組合員に社会貢献活動が認知されているかという課題が根底にまだあるかもしれません。

今井

私たちが持つUSRという理念の1つを具体的化したものが社会貢献活動です。一方で、その理念を全組合員が共有できているかとなると、未だ課題が残ります。ただし、社会問題に関心を持とうとか、社会とのつながりを持とう部分では、共感、共有の輪は広がっているとは言えます。

――先輩たちから引き継いだ活動が縮小していく心配はありますか。

今井

例えば、グループの従業員にもっと社会貢献活動に参加してもらうために、先述した社会貢献セミナーに、気象予報士の天達さんを講師としてお招きしました。グループ全体で活動を前進させる時には、何かボランティアしませんかと呼びかけるよりも、組合員が興味を持ちやすいメニューを志向することも必要です。取り組みや参加者の裾野を広げるためには、その時々に応じて活動の形を変えていくことも大切だと思います、仮に悪いKPIが出たら、やり方を変えれば良い程度にしか思っていません。執行部の中では丁寧に結果を検証し、現状を維持すべきか、見直すべきかを都度確認するようにしています。

奥野

社会課題への対応は、拡縮という尺度では捉えていません。大げさな言い方ですが社会に対する不変の「黄金の精神」が先にあって、その発露の仕方は、その時代ごとの姿でよいと思っています。

経営においては、提供する社会的価値を各市場の客観評価に接続し、統合的な企業評価につなげていくことは重要です。しかし、労働組合や福祉団体はそうした尺度から距離を置いて、社会と向き合うことができます。だからこそ、打算や戦略なく、純粋な目的で活動ができるのだと思っています。

そうした意味において、活動や参加者の量を追求する時代、活動範囲やその質を追求する時代など、社会に向き合う中で必要と捉える活動を、時代ごとの社会と人にとって最適な姿を追求したいと思います。

――これまでの話をお伺いして、全髙連・髙島屋労働組合と会社は、いい意味で連携し、また協調していくことを重視しているという印象を持ちました。労使関係のあり方についてどのようにお考えですか。

奥野

まず経営・労働組合ともにお互いへの配慮は大切だと思います。そして今回のテーマである社会貢献・社会的価値は、経営でもポリシーとして根付き、大きなウェイトを占めています。例えば、経営方針をみると、営業関係は2割程度ですが、社会関係は4割になります。

今井

過去の労働組合は要求主体の部分が中心でしたが、今は実行主体であることを意識しています。そして、このことは経営にも伝えています、例えば、経営が社会性を追求していくESG経営の推進という方針を立てた時には、私たち組合員はそのことを実行主体として実行していかなければならないわけです。

奥野

労使が合意した政策を実際に実行するのは当然、組合員ですから、労働組合は現場に対する責任を負っています。そして、合意したからには、現場の行動を労働組合の力としていかないと会社に対峙できません。責任を果たせば、その結果をもって労働条件を向上させていこうという考えのもとで、労働組合は現場の利益代表として活動しています。

さらに労働組合では、社会のインフラ機能を持ち、また地域の象徴である百貨店だからできる新たな役割の視点から経営に対して提言しています。各提言に対しての政策の策定や見直しなども経営と協議しています。


取材日 2025年9月1日
※団体名や役職は取材当時のものです。

聞き手 中村天江、新井康弘
執筆 新井康弘

 

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