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労働組合の未来

社会課題への挑戦

労使共通の理念と独自財源、ゼンショーG労連はリソースの25%を社会課題に!

2025年10月14日

zwfロゴ

すき家やはま寿司、ロッテリアなどの14労働組合、16万人が加盟するゼンショーグループ労働組合連合会(ゼンショーG労連)では、組合リソースの25%をパブリック・リレーションにさいている。なぜそうした社会的な活動が可能なのか、ゼンショーG労連の本坊興一会長と、ゼンショー従業員組合会ZEANの塚原康介中央執行委員長に話を聞いた。

社会課題解決は労使共通の理念

――最初に、ゼンショーグループ労働組合連合会ZWFとその中核組合であるゼンショー従業員組合会ZEANについて教えてください。

本坊

ゼンショーグループ労働組合連合会(以下、ZWF )には、2025年8月末時点で、全部で14の労働組合、約16万人の組合員が加盟しています。すき家で働く約6万人の従業員が加入するゼンショー従業員組合会ZEAN(以下、ZEAN)や、はま寿司従業員組合会やロッテリアユニオンなどの外食系の組合、小売や介護の組合で構成されています。

中核となるZEANの設立が2011年、グループの連合会であるZWFの設立が2014年です。ZEAN、ジョリーパスタユニオン、ココスジャパンユニオン、ビッグボーイジャパンユニオン、はま寿司従業員組合会、なか卯従業員組合会の専従者9名が中心となり、約16万人の活動をサポートしています。

ゼンショーグループ労働組合連合会
塚原

ゼンショーは「食を通じて人類社会の安定と発展に責任をおい、世界から飢餓と貧困を撲滅する」という理念を掲げています。ZEANも労働組合の結成時から、これを基本理念として共有しています。つまり、労使は対立するのではなく、共に理念を実現していく関係にあります。労使が同じ理念を掲げて活動しているのは、ゼンショーの労使関係の大きな特長だと思います。

――経済条件の改善を最重視する労働組合が多いなかで、組合理念の最初に社会課題が来るのは珍しいですね。

塚原

一般的には、「働く場所をもっと良くしよう」というのが、労働組合の基本的な活動だと思うのですが、ZEANは社会貢献からスタートしているところがあります。労働組合の結成10年誌にも、第1期に「ZEANが単なる労働組合ではなく、会社と同様に社会的責任を果たすべく(略)スタートしました」という記録が残っています。もちろん、従業員が直面している現場の課題には、後で説明するように、労働組合としてきちんと対応しています。

災害復興支援にグループの組合員が結集

――主な社会貢献活動を教えていただけますか。

本坊

ZEANやZWFではいろいろな社会貢献活動をしています。最近では、災害復興支援として、能登半島地震やパキスタン洪水、ミャンマー大地震の復興支援を行いました。大規模災害に関しては、会社側は対応プランを整備してあり、能登半島地震でもキッチンカーを出して炊き出しを行っています。労働組合の活動はこれとは別です。

地域社会にとってゼンショーグループのお店は食のインフラです。お店を再開できれば、被災者の方々に温かい食事を届けることができる。ですが、能登半島地震により、ゼンショーグループではすき家3店舗、ジョリーパスタ1店舗、はま寿司2店舗、ココス1店舗、従業員約100名が被災しました。

1月1日に地震が起きて、1月5日には、ZWFはスーパーのジョイマートユニオンと連携して物資を用意し、車に積めるだけ積んで、現地入りしています。さらにZWF内の組合同士の横のつながりで、被害を受けた店舗の復旧に入りました。

――具体的にはどんな活動をしたのですか。

本坊

現地の店舗では被災により、トイレは使えず、ゴミも捨てられなくなっていました。違うブランドの組合員が一つの店舗にいるなんて通常ありえません。ですが、はま寿司の店舗に、ジョリーパスタやすき家の組合員が支援のために集結し、店舗の復旧作業を協力して行いました。

――これは就業中の復旧活動ですか、それとも、ボランティア活動ですか。

本坊

この時は、就業中の人も、そうではない人も、どちらもいます。従業員も被災していて、家がぐちゃぐちゃだという人が多くいましたが、ZWFで動くなら手伝うよと。各単組の役員や支部長に限らず、一般の組合員がずいぶん助けてくれました。休み中のクルーが車を出してくれる、ということもありました。

非専従の執行委員もボランティアに行っています。ボランティア活動により意識が変わった人もいて、一人は今もZEANのパブリック・リレーション部で、他のボランティア活動にも積極的に参加しています。

ZWFが機動的に動けたのは、普段から横のつながりがあって、さらにグループ労連と各単組の事務局が同じ場所にあり、情報共有や意思決定がスムースだったからだと考えています。

はま寿司の店舗に、ジョリーパスタやすき家の社員が入った時の写真

「地域との共生」を目指すパブリック・リレーション

――「パブリック・リレーション」という組織を設置している労働組合は珍しいと思います。組合の組織構成を教えてください。

塚原

ZEANでは、環境改善部、レクリエーション部、まな部、パブリック・リレーション(PR)部の4つの組織をつくって活動しています。環境改善部は労働条件や労働環境の改善をする組織、レクリエーション部は組合員同士の交流会やスポーツイベントなどを行う組織、まな部は全国の組合員が日本文化を体験したり、セミナーを通じて学ぶ機会をつくる組織、パブリック・リレーション部は「地域との共生」を掲げて、災害復興支援やこども食堂などの社会貢献活動を推進する組織です。会社側にも地域PR推進室という組織があって、必要に応じてそこと連携しています。

本坊

4本柱のひとつがパブリック・リレーション部なので、社会貢献に組合リソースの25%を割いていることになります。こういう形で組合活動を行っていることも、ZEANが社会貢献や地域貢献を重視している証左だと思っています。

画像データ

――災害復興支援の他にどんな活動を行っているのですか。

塚原

子どもたちの支援に力を入れています。例えば、会社の地域PR推進室との協力体制のもと、子ども食堂を定期的に開催しています。クリスマスイベントの際には、多くの組合員がボランティアで参加し、サンタクロースに扮したり、ケーキを提供したりして、利用者の方々から大変好評をいただきました。

また、2025年10月には、かわさき市民活動センターの協力のもと、食育をテーマとしたイベントを開催予定です。すき家の牛丼に関するクイズを通して、食の大切さや食に関わる職域の広さを学んでもらう内容です。このイベントを皮切りに、他団体や行政とも協業して、子どもたちを対象とした活動を広げていきたいと考えています。

本坊

社会的養護下で暮らす子どもたちが意欲的に学業に専念できるよう、奨学金給付を行う「ゼンショーかがやき子ども財団」に理事として参画し、労働組合ならではの活動も行っています。

例えば、食料調達の大変さと食の大切さについて考えるきっかけづくりのため、ZEAN主催で「船釣りおよび調理体験」を実施しました。ZWFで運営メンバーを募ったことにより、魚に通暁しているはま寿司の組合員や、商品開発に携わる組合員が集まり、横断的なメンバーで活動することができました。

塚原

他にも、会社が取り組むフェアトレードについて共感を広げる活動を推進しています。例えば、ゼンショーは、ネパールではフェアトレードによって生まれた資金を返済義務のない奨学金にするなど、子どもたちの未来のための取り組みを行っています。

ルワンダでは、水道施設の建設を行いました。これにより、子どもたちは水源まで1時間以上かけて水をくみに行くという重労働から解放され、学校に通えるようになりました。また、家庭科教室の取り組みは、現在7つの学校で実施されています。調理や清掃、裁縫など、日々の実生活に役立っていると聞いています。こうした活動について、ZEANではPR部が主催する「フェアトレードセミナー」を通じて認知拡大に努めています。

――フェアトレードは公正取引の仕組みなので、使用者側の取り組みですか。

塚原

ZEANは設立した当初、ソマリア難民の子どもたちへのミルク支援を行っていたんです。「食を通じて人類社会の安定と発展に責任をおい、世界から飢餓と貧困を撲滅する」という理念のもと、海外に向けた支援も一貫して重視してきました。

フェアトレードへの共感を広げる活動はその延長なので、労働組合から会社に協力してほしいと話しています。春季交渉の議題としてこの活動を入れたところ、会社側から「なぜこれを入れているのか」と聞かれたこともあります。ですが、こういう活動は双方向でいいと思っていて、労使共催のイベントを増やすよう、組合側から会社に働きかけています。

――ゼンショーの場合、労使共通で社会課題解決を目指しているので、労働組合から申し出れば、経営側も二つ返事で協力してくれるのでしょうか。

本坊

ケースバイケースです。会社にも会社の関与する・しないの線引きがあるので、例えば人道的な寄付への協力依頼でも様々なリスクを加味して関与が難しい場合があります。労働組合としても寄付先を中立的な組織にするといった工夫はしています。

組合員の参加と共感を広げるために

――こうした活動の参加者数はどれくらいですか。

塚原

各地でのボランティア活動には定員以上の組合員が応募してくれています。子ども食堂には、今のところ1回あたり5名程度が参加しています。フェアトレードへの共感を広げる活動として定期的に開くセミナーには、毎回100名以上の組合員が集まります。

――ZEANに約6万人、ZWFに16万人の組合員がいること考えると、もう少し大きな規模にできそうですが、その点についてはどうお考えですか。

塚原

そこが課題だと考えています。いまは運営側リソースの制約から、子ども食堂や食育イベントなどの体験型の活動は、どうしても1回10名程度の枠になってしまうので、ZEANの支部での企画・運営を増やして、参加枠を広げる動きを始めたところです。ZEANだけでなくZWF全体に広げていきたいとも思っています。また、外部への広報も今は事務局が担っているだけので、本当はもっと力を入れたいと思っています。

本坊

組合員への周知も強化しています。団体交渉で経営側に申し入れを行い、会社が提供している給与明細などをみるWebサイトに、労働組合のニュースを常時2つ掲示できるようにして、そこでボランティア活動などを報告しています。

4年前に介護ユニオンの組合員から福利厚生に関する要望があり、3年かけて団体交渉したゼンショーベネフィット制度が昨年から始まりました。これは、入社から3カ月後に3000ポイント、6カ月後に6000ポイント、後は1年ごとに10000ポイントを付与するもので、1ポイント1円で使えるので、賃上げに近いものです。ポイントを使ったり、社員証を提示するには、このWebサイトで手続きをする必要があるので、そこの導線に社会貢献活動の紹介を入れられるようになったのは大きいです。

塚原

労使ともに社会課題解決を重視し、それを広報しているとはいえ、組合員の多くは、まずは処遇や職場環境の改善を求めています。なので、その要望に応えることなく、理想だけを追求することは難しいと考えています。組合員のニーズに寄り添いながら、社会課題に関する共感や取り組みを広げていきたいと思っています。

本坊

ZEANでは、結成から3期位までは、どちらかといえば理念が先行していました。しかし2014年に、厳しい労働環境や長時間労働により相当数の従業員が退職し、メディアで報道され、第三者委員会が設置されるに至りました。当時は、店舗のオペレーションが回っていないのに、経営側はそこを注視しておらず、本部と現場に乖離がありました。ZEANとしても、もっと網の目を細かく現場の声を聞く仕組みをつくってやっていかないとだめだと、基礎的な組合活動に注力するようになりました。

――基礎的な活動についてもう少し詳しく教えてください。

本坊

例えば最近では、2021年に、2030年までの10年間は毎年ベースアップすることを労使で合意しています。コロナ禍もあり足元の業績は厳しかったのですが、継続的な賃金の引き上げの明示により、従業員に安心感を与え、個人消費を喚起し、日本経済の成長の一翼を担うという決意表明として、異例の長期合意ができました。ここ3年間の賃上げ率は平均12.2%となっています。

一方で、このような合意に対しては、組合員も応える責任があることを忘れてはなりません。10年連続の賃上げは、経営にとって予測困難な将来に対して約束するということであり、極めて大きな覚悟のうえに成り立っているものと受け止めています。この覚悟に応えるために、組合員が果たすべきは、自らの能力のアップデートやリスキリングを通じて労使双方が生産性向上に向けて努力しなければ、持続可能な成長は望めません。組合員一人ひとりの成長が不可欠であるという考え方を基本に、それぞれがキャリア自律を実現できるよう組合員をサポートしていきます。

経営と協力し、独自財源を確保

――賃金を10年連続して引き上げるという確約は、従業員にとっても、社会にとっても、有益です。社会貢献活動ではなく労働条件改善に、組合のリソースは集中すべきだという意見はありませんか。

本坊

社会貢献活動に対して組合員からそうした反対の声を聞くことは、ほとんどありません。理由は3つあると考えています。まず、ゼンショーは創業以来、「世界から飢餓や貧困を撲滅する」という理念のもと、食のインフラを創ることを本気で目指してきた会社です。採用活動や社内研修でもたびたびそうした思想に触れるので、社会課題に取り組むのは当然であるという考えが社内に浸透しています。

また、ZEANの組合費は、クルー(パートやアルバイト)は月200円、社員は月500円です。ユニオンショップでパートやアルバイトも含めて組織化しているため、組合員数が多く、一人あたりの組合費が安いんです。組合員の組合活動に対する負担感はさほど大きくないと思います。

さらに、社会貢献活動に関しては、組合費とは別のリソースがあります。それは、事業所内に設置している自動販売機です。自動販売機では通常、飲料メーカーが自動販売機を設置している事業所に販売手数料を払います。その販売手数料を組合でプールして、規約で社会貢献活動だけに使えるようにしています。

会社と交渉してこの自動販売機を、事業所や工場、物流センターに設置できるようにして、組合員にもその自動販売機で飲料を買うように伝えています。年間で数百万円位になるので、そのお金で活動しています。

塚原

この仕組みは、組合員が飲料購入を通じて社会貢献活動につながっていると感じる機会にもなります。また、規約で用途を制限することで、このお金を活かせるように、具体的な活動内容を考え行うという側面もあります。

――最後に、社会貢献活動における経営との関係をどのように考えていますか。

塚原

経営側と同じ理念を掲げることに対して「御用組合」と言われることもないわけではないんです。でも、飢餓や貧困は人類社会が始まって以来、一度も解決していない難題で、会社は事業を通じてその解決を目指している。企業の利益を超越したところにある社会貢献は、労使で対立するものではありません。

従業員は企業理念に賛同して入社してくるわけで、その実現に向けて、労働組合側も動くことは自然なことです。ZEANの活動を通じて、理念への共感を広げていきたいと思っています。「会社側が掲げているから労働組合は掲げない」といった小さい話にしてはいけないと考えています。

本坊

労働組合と経営は「両輪」、もっといえば「同軸」です。労働組合として、労使関係において一方的に要求するだけの組織ではなく、労使協調路線からさらに一歩踏み込んだ、労使協力路線を念頭において活動しています。あらゆる課題に対し、経営とも積極的にコミュニケーションを取り、組合員の声を形にし、後世につながる未来をつくっていきたいと思っています。


取材日 2025年7月29日
※組織名や役職は取材時点のものです。

聞き手 中村天江、堀江則子、新井康弘
執 筆 中村天江

 

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