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労働組合の未来

社会課題への挑戦

社会課題解決に労使対立はない!経団連に聞く労働組合の強みと可能性

2025年11月25日

経団連ロゴ

日本経済団体連合会(経団連)の調査では、社会貢献活動を行っている労働組合がある、との回答企業が50%を超える。社会課題解決における、労働組合と経営側の強みは何か。経団連ソーシャル・コミュニケーション本部の正木義久本部長、益子千香上席主幹、萬屋隆太郎氏に、最新の調査結果をもとに経営側の取り組みや労働組合への期待を聞いた。

環境激変。社会貢献活動は逆風にさらされている

――経団連は企業の社会貢献活動に関して数年おきに調査を行っています。最新の調査結果を拝見すると、労働組合の現状や問題意識と重なるところがいくつもあり、お話をうかがいたいと思いました。

正木

企業の社会貢献活動を取り巻く状況は、この2、3年で大きく変わりました。経団連ではもともと、アメリカ企業の経常利益や可処分所得等における一定割合を社会貢献活動に拠出する「パーセントクラブ」に触発されるかたちで、1990年に1%クラブを設立し、社会貢献活動に取り組んできました。日本でもCSRやSDGsが浸透してきたため、1%クラブは2019年に位置づけを変え、いまは経団連企業行動・SDGs委員会の下部組織になっています。

ところが最近は、アメリカの政権交代などもあり、「ESGバックラッシュ」とも呼ぶべき、逆風にさらされるようになっています。企業はESGの観点などを気にせず、売上だけを追求して、本業で社会貢献すべきだという考えが広がりつつあるのです。

こうした考えの株主から「選択と集中」を求められても、企業は「いま儲かる事業」に集中すればいいというものではない、企業のパーパスに基づく事業を行うことが企業の存在理由だと説明しています。

でも、パーパス・ドリブン経営には光と影の両面があって、パーパスに即した活動を主流にできる一方で、パーパスから遠い活動は止めるという判断になりかねません。

経団連加盟企業でも、例えば研究開発型の企業が子ども向けの理科教室に注力するといった具合にパーパスに近い社会課題への取組みを拡大する一方、社会課題への取り組みを縮小するところがでてくるのではないかと危惧し、2024年9~11月に実施した「社会貢献活動に関するアンケート」には、そうした問題意識も盛り込みました。この調査は経団連企業行動・SDGs委員会に加入している企業を対象に実施し、153社から回答を得ました。

すると、確かに2024年度調査では、回答企業の88%が「企業理念やビジョンの実現の一環」で取り組んでいるとしていました。

また、我々の懸念はいい意味で裏切られ、社会貢献活動を行う理由としては、上位から「社会の一員としての責任」「持続可能な社会の実現」「地域との良好な関係性の構築・維持」となっており、一見、パーパスから遠い活動でも、企業として取り組む意義付けをして継続している例が見られました。

加えて近年、著しく伸びているのが「社員が社会課題に触れて成長する機会」「社員のモチベーション向上や帰属意識の強化」で、社会貢献活動を行うことによる自社の存在意義を、株主だけでなく、社員にも伝えるようになっているのです。

企業が社会貢献活動を行う理由
出所:経団連(2025)「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」

――社会貢献活動を「社員が社会的課題に触れて成長する機会」とする割合は、2005年度調査では4%しかなかったのに、2024年度調査では77%まで激増しています。「社員のモチベーション向上や帰属意識の強化」も大きく伸びています。

益子

これは調査方法変更の影響もあります。複数選択の数が、2005年度調査では「3つ以内」、2020年度調査では「5つ以内」、2024年度調査では「当てはまるものすべて」なので、単純比較はできないのです。とはいえ、企業は社会貢献活動に、社員の成長やモチベーションを含めて、多くの意義を見出しているととらえています。

正木

一方、社会貢献活動の課題としては、最も多いのは「活動に参加・協力する社員の広がり」の70%です。社会貢献担当者は昔から、こうした活動が好きで一所懸命やる人がいるものの、いつも同じメンバーで、参加者がなかなか広がらないということに悩んでいます。

2番目は「成果が見えにくい活動内容に対する評価の実施」65%です。活動の評価は企業が苦労しているところです。経営としては、社会課題の解決にどれくらい好影響を及ぼすことができたのか、どう経年で改善したのか、企業価値の向上にいかにつながっているのか、を見える化したい。成果の可視化は、株主へのアピールとしてだけでなく、地域社会に対しても重要ですし、社員に納得感を与え活動を広げていくためにも有用です。地域、株主、社員、経営の四方良しを示すことになります。

社会貢献活動推進上の課題(2024年度)
出所:経団連(2025)「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」

――数値化するのは難しい面もあるのではないでしょうか。企業はどのようにインパクト評価を行っているのですか。

萬屋

インパクト評価について企業担当者とお話をした際、必要なデータの取得や貨幣価値への換算が困難、教育関係のように効果が出るまでの期間が長くインパクトの測りようがない取り組みもある、といった悩みを伺っています。また、インパクト評価の好事例があれば知りたいという声もとても多かったです。

正木

例えば、損害保険ジャパンでは子ども向け交通安全教室の活動に対して緻密なインパクト評価を行ったことがあります。交通安全教室により、ヘルメットをかぶって通学する割合がこれだけ高まり、それにより交通事故で重傷になる割合がこれだけ減り、その結果、損害保険会社としての支払額がこれだけ減るという便益を計算しています。

ただ、ここまできれいに算出できるケースは多くありません。もちろん、社会貢献活動の意義をすべて数値化する必要があるのかという疑問はあります。しかし現実的には、被災地支援をとってみても、自社の得意なところを活かした物品寄贈や物資支援が増えていて、説明の必要が生じています。能登半島地震の支援活動でも、その効果を数値化できておらず、今後、指標を開発していく必要があると考えています。

能登地震支援における労使の取り組み

――調査報告では、能登半島地震の支援に関しては、労働組合側で見聞きする課題や要点と重なるところがかなりあります。

正木

今回の調査では、社会貢献活動の社内推進主体として、社会貢献活動を行う労働組合がある、と答えた企業が51%ありました。

さらに、能登半島地震の被災者・被災地支援において労働組合が独自に支援を行ったところが回答企業の17%、労働組合が企業本体の支援活動に共催・協力したところが15%あります。とくに寄付金の募集は労使協力で行っているところが多いです。

――厚生労働省「令和5年労働組合活動等に関する実態調査」によれば、社会活動・地域活動に取り組む労働組合の割合は3.6%まで減少しています。経団連に加盟するような大企業の労使が社会貢献活動を牽引しているのだと再認識しました。

正木

能登半島地震で、個人としてボランティアに行った際、輪島市の社会福祉協議会の運営を手伝っていたのは労働組合の方でした。労働組合の方は行動が早く、機動力があるし、現場を知っていて、手足を動かせるのがさすがだと思いました。

それに労働組合は、弱い人に寄り添い、インクルージョンする力が強い。例えば、ボランティアの参加者にもいろいろな人がいて、障害や何らかの事情をもっている方もいます。労働組合の人たちはそういう方たちと一緒にうまく活動しています。

萬屋

私は企業人ボランティアと一緒に七尾市のボランティアセンターで活動のお手伝いをしたことがあります。その時にやはり、企業人の経験は災害支援の現場で役に立つと思いました。

例えば、ボランティア活動では被災者の自宅を訪問することもありますので、訪問先の住所や依頼者のお名前など、個人に関わる情報に接することになります。災害時にその扱いについて細かい契約書を結ぶといった余裕はありませんが、当然、秘密保持は必須です。

企業人はそうした情報の取扱いのセンシティブさをわかっていますし、実際、身元がはっきりしていることで信頼できると度々評価されました。

また、災害時に、連合がボランティアバスを手配してボランティアを定期的に派遣するのも、良い取り組みだと思いました。長期間安定して、身元や活動の質が担保された方が交代で活動してくれることは、現場で受け入れる側のボランティアセンターの方からすると、とてもありがたいことだろうと思います。

さらに、熊本地震でも、労働組合の皆様はボランティアを派遣にあたってしっかりとボランティアの宿泊施設や食事場所を確保されたと聞いています。災害ボランティアの現地入りでは車、宿、食事の確保が実は非常に重要で、それをしっかり整えられる人のつながりが、労働組合にはあると感じます。

――人と人、組織と組織をつなげる力は、労働組合の強みです。

萬屋

社会貢献活動ではひとりひとりの善意を拾い上げることが大切です。クラウドファンディングで小口の寄付を集めるなど、新しい変化は起きていますが、災害ボランティア参加希望者が4、5人いるだけでボランティアのバスを出すことは難しいです。でも、各社で募ると参加希望者が1、2人であっても、いろんな会社で合計40人集めることができれば、バスを出せます。労働組合にはこのような声を取りまとめ、まとまった力にできる素地があると思います。

経営側は、社会貢献活動の担当者レベルでは連携していても、違う企業間で社会貢献活動を推し進めるのはまだ一般的ではありません。産業別、時に産業横断的にまとまれるというのは、労働組合の大きな強みではないでしょうか。

益子

大規模な災害時は、みんな、普段は関心のない人でさえも、何かしたいと考えます。経団連では能登の小学生に文房具を送るプロジェクトを立ち上げ、企業のみなさんに販促目的などで作ったファイルやノートなどを経団連会館に送っていただき、みんなで集まってパック詰めをしてお送りしました。これ以上受け付けられないというほどにボランティア人材・物品が集まり、また、日頃は社会貢献活動をしたことがない方たちも協力してくれました。

社会課題解決を「自分ごと」にするために

――「参加者の広がり」は、社会貢献活動の昔からの課題です。

萬屋

本来、ボランティアは自発的な活動であるはずなのに、学生時代などに無理やり参加させられたことにより嫌な印象をもっている、という人がいると思います。でも、自発性を最重視すると、参加が熱心な人だけに限られ、増えない。このトレードオフは社会貢献活動の永遠の課題です。

経団連では、専門スキルや得意なことを活かすプロボノのような活動を積極的に推進しています。被災地の支援ボランティアというと廃棄物の片づけや泥かきが一般的ですが、先ほど紹介した企業人ボランティアの活動は被災地のボランティアセンターの運営を支援するプロジェクトで、登録希望者のデータ整理やアプリのマニュアル整備、ボランティア送迎の車の差配、書類発行なども担当しました。

普段の仕事に近い活動をすることで、「スキルが活きた」「やりがいがあった」という感想が寄せられました。「やってよかった」という思いが、次の活動につながるので、活動内容には工夫の余地があると考えています。

正木

冒頭申し上げたように、ESGバックラッシュなどのなかで、社会貢献活動は鍛え直されるタイミングになっています。「何でやるのか」を言語化、数値化するだけでなく、萬屋さんがいうように、みんなが自分ごと化できるか。自主的に社会課題を解決したいと、それぞれ思って、それぞれに合ったメニューがあるのかが大切です。

萬屋

労使がそれぞれの得意分野で活動したり、連携したりしている例もあります。武田薬品工業は東日本大震災からの復旧・復興において、被災地への長期的な寄付や災害を風化させない取り組みを積極的に行った企業の一つです。人事が新人のフォローアップ研修を東北で行う、労働組合が被災地の特産品を売る企業内マルシェを開催する、労使双方が参加して3.11をテーマにした社内フォーラムを開催するといった、幅広いプログラムを実践されたそうです。

――社会貢献活動において、経営側だからできる、経営側ならではの強みは何ですか。

正木

企業の1番の強みは、社会的責任やパーパスにもとづく活動だとうまく理屈づけできれば、本業として取り組めることですよね。経営側は情報収集力やいざ動かすと意思決定した後の展開のスケールが大きい。

益子

月並みかもしれませんが、豊富な人材・物資・資金を持っていて、それをうまく組み合わせたり、一部を使いこなしたりして、大きなインパクトを与えられるのは企業だと強く思います。

萬屋

社会課題に取り組む現場をみていると、NPOなどの活動発信の際に、企業の名前やロゴはずらっと並ぶのに対し、企業別労働組合の名前が出ることはそれほど多くありません。団体側は企業名を出すことで企業のブランド力や信頼性を利用し、企業側も社会貢献活動に取り組んでいること、本業事業にも良い影響を及ぼせること等を印象づけられるのに対して、労働組合はそういう役割は果たしにくいかもしれません。

――社会貢献活動にかけるリソースは、労働組合が活動を継続するうえで大きな制約になっています。労働組合はどれくらい活動すれば十分かの判断基準をもっていないようにみえます。

萬屋

経団連には1%クラブがあると先ほどお話しましたが、例えば、アメリカのセールスフォース・ドットコムでは、「1-1-1モデル」を掲げて、株式の1%、製品の1%、社員の就業時間の1%を、持続可能な世界を築くために活用しています。

益子

アメリカ企業の中には、社員の労働時間の10%は社会貢献にあてようというシステムをつくり、経営にサステナビリティを取り込んでいるところが結構たくさんあります。

正木

企業の利益や社員の労働時間の1%や10%を社会課題のために使うことを、世の中の常識にできれば、社会課題解決はぐっと進みますよね。

――最後に、社会貢献活動を推進するうえで、労使の関係をどのようにとらえていますか。日本の労使は協調的だという考え方も、労使は緊張感をもって独立性を保つべきだという考え方もありえます。

正木

社会課題を解決するという目的のもとでは、労使で対立する要素がないんですよね。同じ社会課題を解決しなければいけないので。それぞれの得意なところを活かして、一緒にやったらいいと思います。

益子

社会貢献活動に関しては、労使対立はあり得ないと思います。労使関係が普段から良好なところは、社会貢献活動も一層やりやすいのではないでしょうか。労使間で労働条件をめぐって緊張関係があったとしても、社会貢献活動をきっかけに関係が改善することも期待できるかもしれません。

萬屋

社会貢献活動の領域は、問題意識が強く経験豊富な人がいる一方で、企業ではジョブローテーションで担当となり、知識も経験もないところからスタートすることが珍しくありません。労働組合側のなかにも、労働条件の改善が最重要で、社会貢献活動には関心が薄い人もいるでしょう。そうした時に、労使どちらかに社会貢献活動に熱心な人がいることで、もう片方を引き上げる力が生まれ得ると思います。労使間の関わりを通して、社会課題に目が向きやすくなることを期待しています。

正木

社会課題に関しては、労働組合側にやる気があるのに、使用者側にやる気がないなら尻をたたいてほしいですね。「取引先の現場が困っているから、私たちは助けに行きたいんだ」「会社としてもっとやってくれ」と、労働組合から発信して、時には突き上げてもらって、会社に自分ごとだと気づかせてほしいです。


取材日 2025年8月27日
※団体名や役職は取材当時のものです。

聞き手 伊藤彰久、中村天江、新井康弘
執筆 中村天江

 

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