2026年1月26日

組合員ひとり200円のカンパを50年以上続けている自動車総連。産業の特性を活かした車両寄贈や、障がいのある方々との交流など、様々な社会貢献活動を展開している。その背景にある理念と活動の現状について、中央執行委員組織局の金持史宣局長、松浦潤部長に話を聞いた。
「コーヒー1杯・タバコ1箱分を、障がいのある方々へ」から始まった
――最初に自動車総連の概要について教えてください。
- 金持
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自動車総連(全日本自動車産業労働組合総連合会)は、1972年に結成した、裾野の広い自動車産業を象徴するような、メーカー、車体・部品、販売、輸送、一般業種で働く組合員が集結した産業別労働組合です。企業グループ別の12の労連が加盟しています。現在は、加盟組合数1,030、組合員数約78万4千人、専従役員28名となっています。また、地域における諸活動を推進し、地域福祉の向上と加盟労連との連携強化を目的に、地方協議会が47都道府県に設置されています。
――社会貢献活動を始めたきっかけを教えてください。
- 金持
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自動車総連は、1972年の結成当初から福祉を重要な活動のひとつとして位置づけてきました。「労働組合が社会的責任の⼀端を果たすため、障がい等のある⼈々へ温かい援助の⼿を差しのべ、さらには国全体としての福祉政策の充実を訴求していこう」という考えのもと、自由カンパを開始しました。当時は集めたお金は交通遺児育英会に寄付していました。車を扱う業界として、交通事故で犠牲になった方々のご家族を支援したいという思いが、この取り組みの出発点となりました。
――その後、どのようにして社会貢献活動を進めていったのでしょうか。
- 金持
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1976年から、「コーヒー1杯・タバコ1箱分を、障がい等のある⼈々への⽀援に充てていこう」という考えから、ひとり200円という目標をたてて任意カンパを始めました。まずはじめに、地方協議会の核となる活動として、物品寄贈を開始しました。1979年には、⽇本ユニセフ協会を通じ、発展途上国の⼦どもたちのミルク代として200万円を寄贈しました。
1980年に、交通遺児育英会への⽀援を終了し、交通遺児だけでなく交通遺児家族の相互援助を行う交通遺児⺟の会・奨学基⾦への⽀援を開始しました。交通遺児育英会へは、⾃動⾞労協時代(1969年)から1980年までの12年間で、約2億8千6百万円の⽀援を実施。交通遺児⺟の会・奨学基⾦には、1980年から1988年までの8年間で8千5百万円の援助を⾏いました。
――相当な額を社会貢献活動に拠出していますが、カンパ金はどのようにして集めるのですか。
- 金持
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カンパの方法は様々ありますが、具体的な進め方は各グループ労連に委ねています。基本的には、毎年「組合員数×200円」のカンパ金が寄せられています。組合員のみなさまのご協力により、自動車総連が結成された1972年から今日までに、累計で77億円を超えるカンパ金が福祉活動などに拠出されています。
「規模の力」を活かして、多くの社会貢献活動に取り組む
――現在の主な取り組みを教えてください。
- 金持
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社会福祉施設・団体への車両や物品の寄贈、公益財団法⼈PHD協会への資金支援、連合・愛のカンパへの拠出を行っています。また、組合員の活動参加を伴う支援として、「ナイスハートふれあいのスポーツ広場」の開催にも取り組んでいます。
――社会福祉施設・団体へは、どのようにして車両や物品を寄贈しているのでしょうか。
- 金持
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当活動は、1976年に全国85か所の身体・知的障がい者施設や養護老人施設へ物品を寄贈することから始まりました。1985年には車両寄贈も開始し、その後も毎年継続して取り組んできました。2024年には、33施設に35台の車両を、47施設へ378点の物品を寄贈しています。
現在寄贈対象としているのは、児童養護施設、身体・知的障がい者施設、第1種社会福祉事業に該当する高齢者施設です。
車両寄贈においては、全国で車両を必要としている福祉施設に対し、施設の活動や送迎に用いる車両を贈っています。特別な装備や改造を要する福祉車両や送迎用車両を寄贈しています。寄贈先の多くは、各労連の加盟組合において地域から候補施設を見つけてきますが、地域の社会福祉協議会などに問い合わせて紹介を受ける場合もあります。候補施設が寄贈基準を満たしているかどうかは、自動車総連が最終的に判断しています。
車両寄贈を開始した1985年から2024年までの車両寄贈の累計は、延べ1,100施設に上っています。
物品寄贈については、全国の地⽅協議会が地域とのつながりを活かし、困窮している⼩規模福祉施設を中⼼に寄贈先を選定し、施設や⼊所者の⽇々の生活を支える品物を届けています。寄贈先の選定方法は地方協議会によって異なり、独自の寄贈先リストを作成し順番に寄贈している先もあれば、毎年新たに候補施設を探す先もあります。
福祉施設の中には、日々の運営が立ち行かないほど厳しい状況にある先もあります。そうした施設に寄贈を行った際には、「これでまた施設を続けていく希望が持てます」といった声をいただくこともあります。こうした状況から、自動車総連としては、できる限り本当に支援を必要としている施設を寄贈先に選んで欲しいとお願いしています。
寄贈する物品については、寄贈先が必要とするものであれば基本的に制限はありません。構造物を除き、パソコン、車椅子、電動リモコンベッドなど多岐にわたる品物を提供しています。
物品寄贈を開始した1976年から2024年までの累計寄贈先施設数は、延べ5,000を超えています。
――寄贈先の反応はいかがですか。
- 金持
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労働組合が寄贈候補先の福祉施設を初めて訪問する際には、先方からすると「どんな団体なのだろう」「突然の申し出だが本当に大丈夫なのか」といった警戒感を抱かれることが少なくありません。私たちの活動を知らない施設にとっては、突然"寄贈したい"と名乗り出る我々に対し、まずは慎重に様子をうかがわれるのも当然のことです。そのため私たちは、最初の訪問では自動車総連の活動の趣旨を丁寧に説明するとともに、「何かお困りごとはありませんか」「施設として支援を必要としていることはありますか」と、相手の状況を伺うところから始めるようにしています。
実際に寄贈が決まると、「思いがけない幸運に恵まれた」と喜びの声をいただくことも多く、いただく言葉のひとつひとつが、私たちの活動を続ける大きな支えとなっています。
――このような活動を知ってもらうための取り組みはありますか。
- 金持
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車両や物品を寄贈する際には、必ず寄贈式を行い、その様子を連合が中心となって展開している支え合い・助け合い運動のプラットフォーム「ゆにふぁん 」に掲載しています。また、地方紙の記者の方々に取材を依頼し、記事として取り上げていただくこともあります。地域に密着したメディアを通じて紹介されることで、当該地域でカンパ金を拠出した多くの組合員や地域の方々に活動の意義がより伝わると考えています。
しかしながら、こうした広報の取り組みについては十分とは言えず、課題として認識しています。自動車総連には小規模な単組も多く、社会貢献活動をやりたいと思っていても、単独ではなかなか取り組めないといった声もあります。だからこそ、自動車総連としてのスケールメリットを活かし、小規模単組であっても「自分たちも社会貢献活動に参加している」と実感してもらえるような形で、組合活動の魅力として内外にアピールしていきたいと考えています。
――公益財団法⼈PHD協会と連合愛のカンパについて教えてください。
- 金持
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公益財団法⼈PHD協会(Peace,Health & Human Development)は、ネパールを中心に約20年にわたり医療活動に携わってきた岩村昇医師が、「物やお金を一時的に渡すだけの支援ではなく、草の根レベルで人を育てることこそが本当の自立につながる」との理念のもと、1981年6月に設立した団体です。
PHD協会では、アジア ・ 南太平洋地域の農村に暮らす青年を日本に招き、農業、保健衛生、 地域づくりなど、村の生活向上に必要な幅広い分野の研修を提供しています。また、研修生が帰国した後も継続的にフォローアップを行い、地域住民自身による持続可能な発展を支えています。
自動車総連は、この理念と取り組みに深く共感し、1990年から現在に至るまで、毎年100万円の資金をPHD協会に寄付してきました。PHD協会はこれまでに10ヶ国216人の研修生を受け入れてきました。PHD協会の活動や自動車総連による継続的な支援は、こうした現地の人々の努力を後押しし、地域の未来を切り開く力となっています。
連合愛のカンパは、日本労働組合総連合会(連合)が1989年に開始した社会貢献活動です。連合は、⼈道主義の⽴場から「⾃由、平等、公正で平和な世界の実現」を目指し、NGO・NPO団体などが取り組む事業・プログラムへの⽀援や、⾃然災害で被災した人々への救援・⽀援を⽬的に活動を行っています。自動車総連は、この趣旨に賛同し、毎年1,000万円を愛のカンパに拠出しています。
参加型福祉活動で、障がいのある方々と組合員の心をつなぐ
――「ナイスハートふれあいのスポーツ広場」とは、どのような活動ですか。
- 金持
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⾃動⾞総連は、結成20周年を迎えたことを機に、参加型の福祉活動として公益財団法⼈国際障害者年記念ナイスハート基⾦と協⼒し、「ナイスハートふれあいのスポーツ広場」を開催するようになりました。
ナイスハート基⾦は、1981年の国際障害者年の趣旨を踏まえ、障がいのある方々との交流を通じて⻘少年の⼼を育て、思いやりや豊かな⼈間性をはぐくむ"ナイスハートの輪"を全国に広めることを目的に、1982年から事業を展開しています。
「ナイスハートふれあいのスポーツ広場」は、スポーツを通じて障がいのある人と組合員が交流を深め、その中で「自立と思いやりの心」を育むことを目的として開催しています。開催地域の地方協議会や労連・単組の組合役員、組合員がボランティアとして参加し、競技リーダーや選手誘導係などの運営の役割を担っています。組合員が直接参加し、障がいのある方々と触れ合うことで、単なる寄付では得られない体験と学びが生まれる活動となっています。活動を始めた1992年から2024年までの開催は、累計延べ820会場にのぼり、参加者は延べ24万人に達しています。長年にわたり継続されてきたこの取り組みは、障がいのある方々とその地域の組合員をつなぐ大きな架け橋となっています。

――「ナイスハートふれあいのスポーツ広場」には、相当力を入れて取り組んでいますね。
- 金持
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ナイスハート基金の運営は、ほぼ自動車総連の寄付金で賄っています。当基金に在籍する2名の専従職員が主な運営を担っています。スポーツ広場の開催には、多くの実行委員が必要です。多い地域では100~120名程度の実行委員がいるのですが、これだけの人数を集めるのが大変です。自動車産業は休日がばらばらなので、販売店の休日に合わせて平日に開催したり、販売店は参加しにくいものの土曜、日曜に開催したりして協力を得ています。地方域協議会の幹事メンバーを中心に、各単組の役員が運営委員として参画することが多いですが、職場の組合員まで間口を広げて参画できる体制を整えている地域もあります。
――具体的にどのようなプログラムを行っているのでしょうか。
- 金持
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基本的には、各県の地域協議会が体育館を用意し、地域協議会の役員とナイスハート基金の職員が当日の運営を担当します。種目は、ナイスハート基金が考えます。10時から14時までの4時間を使い、午前中は、ロープ送りやホールインワンなどの競技を行います。ホールインワンというのは、大きな丸い幕を持って真ん中の穴に先にボールを落としたチームが勝ちという競技なんですが、音楽に合わせて体を動かす要素も取り入れて競技を盛り上げています。
午後のプログラムでは、歌手や落語家などのタレントを2名お招きし、ステージでのパフォーマンスを披露していただきます。彼等には当日の司会もお願いしています。また、エアロビクスの講師をお呼びして、参加者全員で体を動かす時間を設けることも多いですね。
――労組側の参加者は、どのような気持ちで参加されているのでしょうか。
- 金持
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自動車総連としては、労働組合としてこうした社会貢献活動を積極的に行っているということを、組合員の皆さんに知ってもらうことも大切な目的のひとつだと考えています。
日常の仕事の中では、障がいのある方々と直接ふれあう機会は多くありません。参加した組合員からは、「最初は正直どんなイベントなのか理解が乏しかったが、実際に参加してみたらとてもよかった」「感動した」といった前向きな感想をいただくこともあります。
中には、「来年も参加したい」と翌年の参加を申し出てくれる運営委員もいて、こうした声を聞くと、活動が確かに価値ある経験となっていることを実感します。
全体として、参加した運営委員の皆様には、概ね「良い経験だった」と受け止めてもらえていると感じています。
組合員ひとりひとりが満足する社会貢献活動を目指して
――このような取り組みの背景には、どのような考え方があるのでしょうか。
- 金持
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⾃動⾞総連は、安⼼・安全・安定した幸せな暮らしの実現に向け、社会的役割と責任を担う労働組合として、すべての加盟組織が福祉活動の推進と充実に努めるべきだと考えています。福祉活動を支えるカンパ金は組合員の善意そのものですから、私たちは、より多くの組合員の想いが直接届けられる活動の充実をめざしています。
――今後は、福祉活動をどのように行っていく予定ですか。
- 金持
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自動車総連「あり方委員会」において新たな地域社会への貢献を議論するという方針が示されました。新たな活動を行うにあたり、既存の活動をどうするのか考えました。現在行っている福祉活動をやめるのか、あるいは純粋に新しい活動を追加するのか、続けるとしたらどう位置づけるのかについて抜本的な議論を行いました。
結論としては、すべての活動を継続するという意思決定を行っています。新たな活動としては、将来の子どもをどう育てていくのかに焦点を当て、特定非営利法人Chance For Allと連携し子どもの居場所作り、遊び場作りを通じた子ども供福祉への支援を決め2025年9月に車両寄贈を行いました。車に遊びを引き出す道具と素材を積んで「移動式あそび場」(プレイカー)を提供する活動が自動車産業に関わる我々にとって親和性のあるいい活動だなと思い、まずはそのベースとなる車両を提供し、そのプレイカーを使った取り組みにも参画していくことにしています。
能登半島地震やその後の豪雨災害の際に実際に被災地に出向き、遊び場を失った子どもたちの希望となる活動として、災害時においても大きな役割を発揮しています。
――今後の課題はありますか。
- 金持
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今後の課題としては、労連や地方協議会の幹事を務めている労働組合は、福祉活動に参加するなど、活動が見える化されています。しかし、幹事構成メンバーに入っていない単組に対して、こういった活動を浸透させるのが課題です。
私たちは、組合員の皆さんから預かった大切なカンパ金を、本当に必要としている方々に届けるという使命を担っています。同時に、福祉活動に参加する組合員自身にとっても意義のある体験となるよう、今後も工夫を重ねていきたいと思います。
取材日 2025年9月17日
※組織名や役職は取材時点のものです。
聞き手 中村天江、新井康弘、堀江則子
執 筆 堀江則子



