2026年3月10日

長い間にわたり培ってきた地域や様々な関係先とのつながりを大切にしながら、多彩な地域貢献を展開する連合長野。行政、経営者団体などの関係先と強い信頼関係ができた経緯や連合長野の災害支援や、NPO支援、就業支援などの取り組みについて根橋美津人会長に聞いた。
災害時は行政、社協、労組、経営...全セクターでの連携が必須
――地域に貢献するためには何が大切だと考えていますか。
- 根橋
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労働組合のナショナル・センター(中央労働団体)である連合は各都道府県に地域の運動を支える47の地方連合会を抱えています。連合長野 はその1つで、11万人を超える労働者が加盟する長野県内最大の労働団体です。1990年に結成され、すべての働く者・生活者の立場に立ち、集団的労使関係の確立と拡大、雇用・労働条件の維持向上、医療・年金・教育・環境などくらしの安全・安心にかかわる政策提言、自然災害の復興支援、地域貢献の取り組みなど、広範な運動に取り組んでいます。また、連合長野には地域に根差した活動を行う10の地域協議会(地協) があります。
地域貢献の取り組みは、私たちだけで完結できるものばかりではありません。地域の皆さんとのつながりの大切さを実感しています。そうしたつながりを作ることが連合や地方連合会の役割であると思います。例えば災害が発生した場合、過去に、被災地や被災者のニーズを十分に把握しないまま独自で活動してしまった反省があります。現在は、平時から行政や経済団体、多様なNPO・市民セクターなどの関係先と連携しながら、それぞれの強みを活かした取り組みができるようにしています。残念ですが、つながりのきっかけとして多いのは、災害時であることが少なくありません。
東日本大震災の時に、長野県では知事の呼びかけで、経済団体、連合長野、市民団体関係者らが発起人となり、被災地・避難者支援を目的とした「東日本大震災県民本部」を立ち上げました。私は連合長野に着任したばかりでしたが、事務局次長として当本部に派遣されました。県民本部には社会福祉協議会、青年会議所、経済界、生活協同組合連合会、共同募金等の団体も集まりました。ただ、日ごろから団体間の連携ができていなかったため、夕方から深夜まで議論を重ねても、なかなか結論に至らないことが何度もありました。その後、各団体ができること・できないことなどを整理し、被災地での活動に加えて、県内に避難されている多くの被災者を支える活動などを連携して取り組むことができました。
こうした経験が起点となって、「長野県災害時支援ネットワーク」の発足につながり、各団体の強み・弱みを知り、お互いに何ができるかを話し合い、県内の各地域で訓練を行うなど、有事の際に迅速に連携し、力を発揮できる体制を整えています。連合長野としては、国や県、他の組織から信頼され、「何かあれば声がかかる存在」にならないといけないと思っています。
――各地域での訓練は地域協議会の単位ですか。
- 根橋
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東日本大震災で被害にあわれた地域の地方連合会から話を伺うと、地方連合会だけではすぐに対応ができないこともあり、各地域でのつながりの大切さを痛感したとお聞きしました。そうした教訓を踏まえ、連合長野の10地域協議会(地協、地方連合会下にあって地域に根差した活動を推進)では、日常的に地域や社会とつながる活動を行うことを心がけています。
災害以外の日ごろの社会連携として幾つか取り組んでいますが、例えばフードバンク信州への通年支援や、その一環として各地協の皆さんが地域の子ども食堂と連携する活動があります。現在、長野県のフードバンク活動の拠点は、大きく2団体ありますが、県と連合長野、みらい基金の三者は、その2つのフードバンク団体を1つに統合できないかという議論も進めています。こうした社会課題解決に向けた「つながり」もそれぞれの役割を活かした活動を積み上げてきた結果だと思います。
長野オリンピックを機に生まれた労使会議
――長野県で労使が連携して地域貢献活動に取り組むことになったきっかけを教えてください。
- 根橋
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長野オリンピックの時に、連合長野と経営者協会は、オリンピックを成功させるための労使会議を立ち上げました。これは世界初の試みだったと思います。競技場等への選手の移動を助けるためのボランティアを組織しました。また、労使会議の発信により、多くの各企業・労使が協議してボランティア休暇制度の導入にもつながっています。こうした体現から、今も経営者団体と日常的に議論や懇談ができる関係が続いています。これは私たちにとって大きな財産だと思っています。
当時、私は単組の書記長を務めていましたが、労働団体、経済団体の協力でこれだけの取り組みができることを実感しました。ただ、労働組合がオリンピックに関わることに対して経済団体等から疑問の声もあったようです。一方で、目的に向かって経営者協会と連合長野で様々な議論を交わしながらも、労使が力を合わせたことで、円滑な連携できたとも聞いています。
現在、春闘の協議だけでなく、労使が力を合わせて解決すべき課題について話し合うための懇談会を毎年夏に開催しています。今年の懇談では、いわゆるトランプ関税が長野県内の経済にどのような影響を及ぼすのかをテーマに格差や価格転嫁について議論しました。また、2014年の御嶽山噴火後には、木曽町で町長にも参加いただき、自然災害に対して労使で何ができるかを議論したこともあります。
諸先輩のおかげで、労使が議論し決定したことは、それぞれが役割意識を持って実行に移すことができています。
――経営者団体以外の団体との連携のきっかけを教えてください。
- 根橋
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2010年~2011年頃、私は県民の公共的な活動を支援する「県民協働を進める信州円卓会議」に参画しました。そこで様々なNPOとの連携を深めることができました。この円卓会議は、当時の政権が「新しい公共」という理念を打ち出し、阿部知事の呼びかけで、行政だけでは解決できない課題をNPOや地域の団体と一緒に取り組んでいくことを目的に発足しました。
――長野県みらい基金について教えてください。
- 根橋
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長野県はNPOなど公共的活動団体を支援する寄附募集の仕組みづくりを行いました。それを受けて、県内のNPO等市民活動団体を支援する法人有志が「長野県みらい基金」を設立しました。
最初、県から職員の支援と県庁の中に活動の場を提供していただき、また労使も資金を持ち寄りました。現在、事業費(寄付総額)は約4000万円です。みらい基金は寄附や休眠預金活用事業の受託などで運営しています
登録すると毎月自動的に寄附できるような仕組みを長野県労働金庫に作っていただきました。そうした様々な制度は他の関係機関にも広まり、県民の皆さんが関われるようになっています。
また、休眠預金を活用した社会イノベーション事業については、長野県労働者福祉協議会を通じて、みらい基金と経営者協会の3者のコンソーシアムで受託しました。
当事業に対して応募があった17団体から7団体を選び、約3年間にわたり1団体あたり約1500万円~約2000万円の資金支援を行いました。加えて、事業支援とともに地域のステークホルダーの把握や連携づくりなど非資金的支援(伴走支援)も実施しました。資金管理の仕方などの側面支援を通じて、NPOが自力で活動できるようにすることも、みらい基金の目的の1つです。
緩いつながりをつくり、厳しい声にも耳を傾ける
――今後、「つながり」についての課題にはどんなことがありますか。
- 根橋
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働いている間は、会社や労働組合といった強いつながりの中にいますが、退職などでそれが切れると孤立してしまうこともあるため、働く皆さんが現役時代から社会と緩くつながり、人生や自身のプラスにもなるような取り組みを進めていきたいと考えています。
また、他産業で働く者とつながることができるという意味では、連合は緩いつながり、つまりウイークタイズもつくることができる強みを持っています。
つながりが広がると、地域を構成する多様な主体との社会対話を通じて困りごとを聞くことができます。そうした関わりによって、労働組合への見方が変わったり、活動への理解が深まったりすることもあると思います。
いま、長野県商工会議所連合会に長年働きかけ、地協と地域の商工会議所役員が懇談できる場づくりを進めています。
また、数年後に社会人となる学生とのつながりも重要です。ただ、長野の大学生に連合長野は本当に知られていません。諸事情で県内の大学において寄付講座を開講できていない状況にありますが、信州大学と長野大学では、教授とのつながりにより講義を一コマ持たせていただいています。最近、連合長野について学生に尋ねたところ、「政治団体です」といった回答が返ってきたこともありました。ただ、講義後のアンケートではボランティア活動や県への陳情など、労働組合の幅広い活動を知ることができたなどの感想をいただいていることからも、全体的な認知度・イメージアップには、まだまだ発信力の強化が必要であると感じています。
一方で、労働組合の新入組合員講座や研修が真のニーズに合っているのか、考え直す必要があると思います。これまでのマニュアル通りの内容では、若者の関心を十分に引くことは難しいのではないでしょうか。
社会とつながれば、つながるほど、耳の痛い意見をいただくことも増えますが、その内容を組織内に落とし込み、そうした指摘や誤った認識を受けないために何をすべきか議論していく必要があると思います。
――どうしてギャップが生じると思いますか。
- 根橋
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私たちの活動が十分に届いていないことが原因の1つだと思います。先輩方が取り組んできた活動について、その知恵や理念、目的をしっかり考えて、新しい運動を創り上げたうえで、次の世代につなげていく必要があります。同時に働く皆さんや地域の方々にとって本当に役に立っている活動になっているのか、地域の皆さんに届いているのか、一つひとつ検証し議論していかなければなりません。
労働組合が「困った人を助ける」「連帯の輪を通じてみんなを幸せにする」組織であるならば、時代の変化に合わせて、誰が、何に困っているか、何が必要かを把握し、それを活動につなげていくことが不可欠です。そうでなければ大切なことが届かない組織、自己満足の組織になってしまう恐れもあります。
――社会貢献活動に対して組合員から厳しい意見が出ている労働組合もあることをどう考えますか。
- 根橋
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労働組合も、働く仲間も社会とつながっているという意識をしっかり持つことが重要だと思います。現在、企業も社会貢献活動を通じて、社会とどうつながるかを模索しています。難しいことではありますが、労働組合には、「自分のために」「自分たちのために」を越え、社会的な意義をどう体現し、どのような効果を生み出すのかが一層求められているのではないでしょうか。
「豊かに生きる」という視点で考えると、賃金・労働条件や物質的豊かさのみに目がいきがちです。一方、労働を通じた豊かさを考えると、自分の仕事や労働組合を通じた活動が社会や周囲の役に立っていると実感できることが重要になります。労働組合の活動においても、どこかに困っている人がいれば組織として関り、役に立った、感謝されたと実感できることが豊かさにつながる活動だと思います。
例えば、直近の事例として能登半島地震の時に、知事・災害支援ネットワークからの要請で連合長野からボランティア派遣を決断しましたが、自分たちの取り組みが被災者の役に立っていると実感できたことはとても意義のある経験ができたのではないかと思います。
また、長野県の事例として、台風19号災害で被災してボランティアが入った工場の経営者の方から、「自分たちの力だけでは何もできなかったが、県内のつながりを通じて助けられた」と感謝の言葉をいただきました。組合員だけが良ければ良いということではありません。社会全体が良くならなければ、必ず自分たちに影響が返ってくるわけです。お互い助けあうという視点が必要です。組合費が社会の役に立ち、結果的に自分たちのためにもなっていることを組合員にしっかり伝えていかなければなりません。
そのためには実体験や身近なところで経験をすることが大切だと思います。例えば、連合長野、社会福祉協議会、経営者協議会が連携し、新たな取り組みとして、プチバイト推進協議会を立ち上げました。生活困窮者やいわゆるひきこもりの方が自分で働いてお金を稼げる、自立できるように応援する取り組みです。当初は、そうした社会課題が身近ではなかったかもしれません。しかし、地域での対話活動を通じそうした課題を抱えるご家族を持つ働く仲間が少なくないことがわかりました。何とかしたいと悩んでいながらも、声を上げられなかった方々です。また、プチバイトを体験した方から「働くことの楽しさを知った」など、様々な声をいただいています。こうした運動を積み上げていくことによって、社会貢献活動に対する共感や理解が広がっていけば良いと思います。

さらに、労働組合自身もメディアからの発信をもっと意識する必要があります。社会や世間に私たちのこうした活動を知ってもらうために、メディアとの連携が重要になると思います。メディアとの信頼関係づくりのために、連合長野では懇談会を年2回程度開催しています。主要地方紙の担当記者との日常的かつ建設的な関係をつくることで、記事の掲載依頼をすることもできます。プチバイト推進協議会の設立総会も信濃毎日新聞で取り上げていただきました。
困っている人がいれば何とかしようとするのが労働組合
――経営者協会と連合長野で強みに違いはありますか。
- 根橋
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例えば災害時では、経営者側の強みは、資金面・物資面などの支援とその意思決定の速さにあります。一方で、労働組合の強みは呼びかけによって、人を集められることと、現場対応の速さです。また、ボランティア派遣に対しては、会社側の理解や配慮も欠かせないことから、労使それぞれの強みと信頼関係が活かされていると感じています。
――労働組合だからこそ、できていることを教えてください。
- 根橋
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台風19号災害の際、県から人手が足りないという相談を受けました。各構成組織に呼びかけたところ、自らも被災したり、仕事が忙しいなどの事情を抱えながらも、多くの方が共感し、集まってくださいました。連合長野では延べ約800名、東海ブロック各県地方連合会からは同約350名の方にボランティアに参加いただきました。東海ブロックの皆さんはこの労働会館をベースキャンプとして活用いただきました。

課題となったのは、ボランティアの輸送手段でした。私鉄県連と経営者協会にお願いして、回送の路線バスを運行していただき、連日被災地まで送ってもらいました。それでも輸送手段が足りなかったため、再度お願いして、電車での無料輸送の仕組みを構築していただきました。さらに県内から車で来られた方のために、経営者協会にお願いして、加盟の民間企業の有料駐車場を約1カ月間にわたって相当台数分を無償提供していただきました。
また、能登半島地震の際、被災地から軽トラックが足りないという相談があり、県や社会福祉協議会、連合長野も支援して軽トラを無償提供いただき被災地へ贈りました。企業から多くの支援をいただいた他に、個人からも「もう不要なので、役立ててほしい」と寄附していただいたケースもありました。

こうした取り組みは労働組合としてのつながりがなければ、実現できなかったと思います。労働組合は、困っている人がいれば何とかしようという力と熱があります。これこそ労働組合の大きな強みの1つだと思います。
長野県で初めての試みとして、台風19号災害時に農業ボランティアを行いました。果樹園に泥が流れ込んだ農家の方から「何とかしてほしい」という相談があり、農団労やJA関係者を通じて連合長野に要請がありました。正直なところ、この派遣にあたっては相当な議論を重ねました。一般的にボランティアは、"生業(なりわい)"の支援は行わないという原則があるからです。生業も支援すると、何のためのボランティアなのかという、活動そのものの位置づけが曖昧になるのではというジレンマがありました。しかし、長野では民家の敷地内に果樹園があるなど、現地の状況を実際に確認していただき、生業であると同時に生活の一部でもあるという点を丁寧に説明し理解をいただき得ました。
その結果、東海ブロックの地方連合会にも協力いただき、農業ボランティアに延べ約300人、他に、県からの要請もあった物資仕分けのボランティアにも同じく約100名を派遣できました。

組合員のためには「内向きすぎる」より「外向き」
――組織ではいつかは人が変わります。バトンを引き継いでいくためには、何が必要でしょうか
- 根橋
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社会貢献・地域貢献やその活動を生み出す社会対話は、今後も地方連合会の重要な役割だと思っています。これこそが連合長野の大きな存在意義につながることを次期役員に継承していけるかが鍵になります。「連合長野だから」という理由で当然のように声がかかるのではなく、私たちがしっかり活動し、その姿を示し続けなければ、信頼関係を維持・強化できないと考えることが大切だと思います。
例えば、組合員の困っていることを経営者に対してすぐに腹を割って話すことができる関係性を築けていなければ、組合員から最初に労働組合に相談が来ることはありません。すべての働く皆さんだけでなく、社会や行政からも、労働などに関することなら、「連合長野に相談しよう」という関係を築く必要があります。こうした様々な関係先とのつながりをつくること自体が連合長野の役割であるという点を次期役員に伝えていきたいと考えています。
どうしても労働組合は、組合員のためだけという内向きの論理になりがちです。しかし、内向きになればなるほど、結果的には組合員のための活動にはならないと考えます。組合員・働く仲間には家族があり、暮らしがあり地域や社会とのつながりがあります、だからこそ、今後も広い視点を持って、社会や地域を見据えながら関与していきたいと思っています。
――連合長野モデルは他の地方連合でも展開可能だと考えていますか。
- 根橋
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今回、連合長野を取り上げていただきましたが、各地方連合会には、その地域ならではの、自信を持って取り組んでいる活動が数多くあります。
連合の「ゆにふぁん」 などを通じて、地方連合会それぞれが持つ魅力的な取り組みを発信していくことが重要だと思います。私としては、他の地方連合会"ならでは"の取り組みを「学び・まねる」、言い換えれば"まねぶ"、ことで、さらに安心社会・地域づくりに貢献していきたいと考えています。また、組織の大小に関わらず力を合わせ、それを発揮できる連合には、より大きな可能性があると思います。
取材日 2025年9月10日
※組織名や役職は取材時点のものです。
聞き手 中村天江、新井康弘
執 筆 新井康弘
